1.探偵は電気仕掛けの夢見るか

 電話の後、直ぐに前金が振り込まれた。その数字に間違いがないことを確認し、俺は期待に胸を膨らませる。さぁ、支度をしなければ。

 モノクロで統一された部屋。開けたクローゼットには、同じブランド、同じサイズの黒スーツがずらりと並んでいる。ネクタイは弟から貰ったシンプルなワインレッドの他は、同じ無地の黒ネクタイが多くを占めている。昂った気分のまま、ワインレッドのネクタイを締め、黒いコートを羽織りそのポケットに小さな財布と携帯を入れる。

 鞄を持つのは好きじゃない。だからコートはたくさん隠しポケットが付いているものを買った。ポケットの中に入ってた携帯が震え、取り出してみれば新着メールが届き。差出人の名前は『Psy』。指でタップしてみれば、すぐに内容が目に飛び込んだ。


『やぁ、景。準備は終わったかな?

 前金を振り込んだよ。早速説明させて貰うね。ちょっとばかし遠いところにあるから、パスポートは持って欲しいな。

 空港で部下が待ってるから、それに従って。移動費はこっちで負担するから大丈夫。ワクチンとかも打って貰うけど、お金の心配はいらないよ。それに副作用のあるものじゃないから安心してね。

 武器は持たなくて大丈夫。流石に空港の目は誤魔化せないから。部下が現地に行ったら渡してくれると思うよ。

 待ち合わせは.....15:00くらい。15:30分の便で向かうよ。かなりの長旅になるから、覚悟決めておいて。じゃあ、またあとで。          Psyより』


 彼らしい。文章と云い、約束の取り付けと云い。強引な彼の言うがままに、時計を見やれば針は既に13:00を指していて。急がないと間に合わないではないか。手荷物はない。身軽なまま部屋から出れば、鍵を閉める。マンションの一室を借りて生活しているから、そんなに厳重に防犯を考えなくて良い。まぁ、高価なものは全て貸金庫の中にあるのだが。部屋の中にあるものと言ったら、拳銃くらいか。

 自分の郵便ポストに鍵を入れ、玄関を抜け外へ向かう。少し冷たい秋の風が頬を掠め、コートを弄ぶ。一瞬だけ強い風が吹き、思わず目を細めた。その風は俺がその仕事へ行くことを歓迎していないようだ。だが、構うものか。抗うように前へ足を踏み出し、自分の車を探し。愛用の黒い車は直ぐに見つかり。ついでに時間を確認すれば、分針は5分を少し過ぎたところで。これなら間に合うだろう。

意気揚々と車のロックを外し、ドアを開けた。


「___っ」


 首に感じた微かな熱。痛みを感じる前に視界は黒に染まる。辛うじて残った意識で膝から倒れ落ちれば、屈強な黒服の男たちが何かを騒いでいるのがわかり。わかるだけで、その内容は聞き取れないが。視界の端に映った黒服が持っていたのはスタンガン。あぁ、そういうことか。合点がいった瞬間、俺の意識は強制的にシャットダウンされた。

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