第7話 七日目

やあ!今日は随分と早い時間についたというのに、君が先にいるとは。

いやはや、タバコでも吸って待っていようかと思っていたのになぁ。

タバコを吸っているのかって?ああ、たまにね。

仕事が終わった後くらいに少しね。息抜きってやつさ。

さて、今日はどこに行こうかね。

おお、珍しい事もあるものだね。君からコーヒーショップの名前が出るなんて。

それじゃあ、今日はコメダに行こうか。

私は、あそこのコーヒーはまだ飲んだ事がないんだ。

そういえば、今日で君と逢うのは一週間になるね。

いや、別に意味はないんだけどね。


さて、コーヒーの用意もできた事だし、今日は何を話そうか。

ああ、そういえば、同人ゲームの話をしていなかったっけ。

それじゃあ、私が同人ゲームを作った時の話をしよう。


それは、まだ専門学校に入学したての頃だった。やけに大人びた生徒がいてね。

彼が同人ゲームを作るから人を探しているというような噂が流れた。

そこで、私もその同人ゲーム制作に携わりたくて、直接、その彼に会いに行って、自分もぜひシナリオライターとして参加したい、と伝えたのだが、あえなく断られてしまった。

ここで私は表面上は引き下がったが、内心では、

「このクソ野郎。私のようなシナリオライターを使わないなんて今に見てやがれ」と、かなりの恨みを持った。

そんなところで、私に声をかける奴がいた。見た目はチャラい男子生徒Tだ。彼は何を思ったのか、「俺たちでゲーム作ろう!」と言い出した。多分、Tも彼の事をよく思っていなかったのだろう。そうして、私とTは仲間を集めだした。後の同人ゲームの相方であるNさん、Kさんなど何人かで集まって乙女ゲームを作りだした。

なにせ初めてだらけの事だから、何も分からない。とにかく、一番使いやすいシステムソフトで製作を開始した。私は当然、シナリオを担当し、他の人はイラストを担当した。スクリプター(ゲームを動かすプログラムを組む人)がいないので、私はスクリプターも兼任した。こうして、初めてのゲームはなんとか形になっていった。私たちは一年目の文化祭でこのゲームを無料配布することにした。教室は学科で使用していた教室を申請した。

余談だが、この間のドラマCDの話は二年目の文化祭での話だ。

まあ、とにかく、教室を抑え、私たちは満を持して同人ゲームの配布をするための飾りつけをしようと教室を訪れた。

ところがだ。

あの、私を起用しなかった野郎が教室で勝手になにかを設置し始めていた。

「ここはうちのチームが抑えた場所なんだけど!?」

「え!?うちも申請だしてるけど・・・」

「いやいや、おかしいでしょ!?ウチはクラスと混合でこの教室全部抑えてんだけど!出てってくれる!?」

「いや、うちも抑えているんだ」

まあ、こんな感じの押し問答が続いた。

どうやら、文化祭の実行員教師が二人いて、両方ともが片方ずつに申請していたのだ。

私は、とにかく、うちは喫茶店もクラスでやるのだから出て行けの一点張り。

相手も販売するので無理の一点張り。

まさに、一触即発といった状態だった。

余りにもいうことをきかないからと、私が拳を振り上げようとした時、担任教師が仲裁に入った。

「まあまあ、そんなに言い合ってないで、半分づつ使えばいいじゃないか」

「でも、先生!喫茶店の飲食スペースがなくなります!」

と食い下がった私に担任教師はこそこそとこう言った。

「○○、ここは相手に譲って、恩を着せておけ」

なるほど。まったく、上手い作戦である。

こうして、私たちは三分の一を貸し出すことにした。

まあ、ウチの同人ゲームも喫茶店もうまくいった。ウチの同人ゲームのPVを見ながらお客さんが喫茶店でごはんを食べてくれたり、同人ゲームでお世話になった先生は軒並み来てくれて、喫茶店は大繁盛した。同人ゲームもほとんど配布してしまった。

こうして、私の一作目の同人ゲームはかなりの好評で配布終了した。

そして、二作目の同人ゲームを作る事になる。今度は声優科から好きな声優を使っていいし、音響科の生徒もこき使っていいと言われ、私は舞い上がった。しかも、楽曲は有名な作曲家が手がけることになった。私はプレッシャーを初めて感じたが、それ以上にワクワクした。こんな楽しいゲーム製作があるのかと。

それで、声優科でゲームのシナリオのキャラの声優を募集したところ300人の応募があり、私たちは300人の中から声優科の教師に頼んで50人に絞ってもらった。

なにせ数が多すぎる。私たちでは選別できないし、そんな時間もない。

50人はとても上手くて甲乙つけがたく、とても悩んだが、その中から数人を採用する運びとなった。まあ、当然のごとく200名以上から私は恨まれたわけだが。私が同人ゲームを作り始めたのも最初は恨みからだったし、何かの力になるだろう。

そうして、音響と声優、作曲家で集まって録音室を使っての音とりが始まった。なんかね、すごかったよ。本物と寸分違わないんだ。この工程は。ゲーム会社にも入って某ドリルアニメの主役声優さんと会ったこともあるけど、この音を取るって工程だけは本当に同じだったよ。もし、君が声優科か声優科のある学校にかよっているなら、一度はこの工程を見たほうがいい。勉強になるよ。

まあ、とにかくこうして、ゲームはギリギリで完成した。私は夏コミにこのゲームを発売した。こう言ってはなんだが、バカ売れしたよ。価格も安いけど、何より昔じゃ中々お目にかかれない、口バクや目パチをするキャラ、OPはフルアニメーションという豪華仕様だったからね。

私はこのゲームをたくさん売りたくて、小売店に趣いて店長と直接交渉して店においてもらったこともある。今じゃ、考えられないだろう?

そんなものだから、このゲームは一人歩きして、どんどんと有名になった。

アニ○イトにおいてもらったのも、このゲームだよ。

大変だったかって?そりゃ大変だったよ。死ぬほど大変で、二度と作るもんかって思うのに、何故か次のアイデアが湧いてくると、どうしても次が作りたくなるんだからどうしょうもないね。

そうそう、Nさんとはその後も二個くらいゲームを作ったよ。とっても、楽しかったし、大変だった。死ぬほどね。そりゃ仕方ないよ。ゲームを作るのなんて、マジで鼻からスイカ産むってくらい大変だから。君もゲームをしている時、これを作った人はどんな大変な思いをしたんだろうと思ってみると、どんなクソゲーも愛おしく思えるようになるよ。

同人ゲームで私が知ったのは、倒れても絶対起き上がれ。止まるな。辞めるな。やめた瞬間、いままでの苦労はなんの意味もなくなるってこと。

もし、君が同人ゲームとかなにかモノを作るなら、絶対に辞めちゃいけない。あきらめたら、いままでの苦労は本当に水の泡になってしまうのだから。


まあ、私の同人ゲームの話はこんな感じかな?

少し説教くさくなってしまったかな。

とにかく、同人ゲームってのは楽しいと辛いが両方ある、私の青春の証だ。

今も青春しちゃってるけどね。

君もなにか作るといいよ。この間話した、シャドウボックスなんかいいよ。

手軽で楽しいからね。

さて。コーヒーも飲み終わったし、今日はここまでにしようか。

明日は私が某カードゲームイベントで、ヒーローショーを企画して公演した時の話をしようか?なかなかにヒーローショーは大変だったんだよ。なにせ、カードでヒーローショーだからね。

それじゃあ、また明日、この時間にあの場所で。

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