第2話 二日目

ああ、おはよう。ってもうこんな時間だから、こんにちは?こんばんわ?

まあどれでもいいや。今日も来てくれるなんて君も大概に暇人なんだね。

ん?昨日言っていた、男装喫茶の話が気になって来てくれたの?

それは嬉しいや。

まあ、とにかく立ち話もなんだから、座ろうか。

今日はあの、まずいマックのコーヒーは飲みたくないな。

お腹を壊しそうだよ。ドトールにでも行こうか。


ああ、やっぱりコーヒーはこうでなくちゃね。豆の香りと酸味が絶妙だね。

え?ああ、そういえば、男装喫茶の話が聞きたいんだっけ。


あれはまだ、私が専門学生だった頃のこと・・・。

まあ、趣味がコスプレでね。それがこうじて男装喫茶っていうかカフェにアルバイトに入ることにしたんだ。

当時、男装カフェがめっちゃ流行っていてね。もちろん、男装カフェで働くだけでもかなりのステータスだった。倍率もめっちゃ高いけど、時給も良かったよ。

ああそうそう、それで、私ってばこれまた奇抜な格好をするのが好きでねー。当時はめちゃくちゃ高価だった金髪ロングのウイッグ被って、15センチの厚底はいて、執事服だからめっちゃ目立った。見知らぬ人が写真とりたいっていうくらい。

まあ、そんなに目立つもんだから、当然、客がめっちゃついた。

男の格好しているだけなんだけど、ほら、私ってお人好しじゃない?だから、ついつい、お客さんの相談に乗ってあげたり、甘えさせてーっていうからよしよしってしてあげてたら、いつの間にかお客さん沢山きた。

キャッチっていって、チラシ配りながらする客引きもナンバーワン。こう言っちゃなんだけど、私の見た目はマジでブサイクだったのに、お客さんはひっきりなしに来た。ある人は花を持ってきたり、プレゼントをくれたり、めっちゃ高いデートコースを注文する人までいた。デートコースって一時間5000円だよ?一万円の半分だよ?マジ、諭吉とか惜しくないのかと思ったわ。この人の目が腐ってんのかと思ったりもしたけど、さすがにそんなことは言わない。お仕事だからね。

んで、デートコースはさすがに執事服じゃ出にくいから、バーテンの格好で都内を案内しましたよ。いやあ、さすがに他の男装カフェにも行きたいから連れてって言われて、本当に連れていかれて、彼氏のように楽しくお茶したのはいい思い出ですよ。当然、ライバル店なのでめっちゃ睨まれましたよ。ええもう。

まあ、とにかく。私、話しが好きじゃない?

だもんだから、客さんの話を聞いて、こっちからも面白いはなしして盛り上げたりしてあげたり、お客さんの特別な日にはこっちからもプレゼントを用意した。

一人の女の子は毎日のようにやってきては、ドリンクセットを頼んでくれるんだけど、結構お高めなので、心配になって、「大丈夫?この店って結構、高いだろ?俺の為に無理すんなよ」とかカッコつけて言ったわけですよ。彼女はまあ、いわゆるいいところのお嬢様だったらしくて、にこにこと笑って「大丈夫、たくさんおこずかいもらってるから」と万札を財布から出した。まさしく、これがホスト沼というやつなのかと、戦慄したね。まあ、ホスト側の私が言えたことじゃないんだけど。

とかく、女の子はスキンシップに弱いことを知っていた私は事あるごとに肩を抱き寄せたり、抱きしめたり、帰り際に手の甲にキスしたりとあらゆる手段を使った。

なにせ、バックがでかかった。バックというのは、お客さんが使ったお金の何割かをもらうっていうシステムで、時給とは別に金が出されるのだ。

当時、相当稼いだと思う。それでも、他店の人気男装に比べればきっと安いほうだろう。なにせ、他店のデートコースは一万円である。しかも美形ぞろい。

口だけ達者な私とは別次元である。

まあ、とにかく、お客さんとはうまくやれていた。雨の日に客が来なければ、来てきてメールを送って、呼び寄せたりできるくらいだったし。

まあ、顔はブサイクなのに人気がある。当然、他のキャスト(男装店員)には良く思われない。しかし、実績を出しているのは私なので、オーナーは当然、私の味方をするというね、地獄ですよ。

客がくるまでの間はいびり倒された。ほんと、泣いた。

それでも、客は私を求めてやってきた。私の客を他の人に任せても、すぐに客からクレームが入るわけですよ。私を呼び出して欲しいと。

これが、さらに先輩を煽る煽る。

そんでもって、さすがに就職活動しないといけなくなって辞めたんだけど、本当に怖かった。


まあ、オチもなけらば笑いもない、つまらない話だけど、どうだい?

自分の知らない仕事の話っていうのは面白いものだろう。

私はそういう《おもしろい》が知りたくて職を転々としているのさ。

そう、今もまさに転々としている最中。

だからこうして、君と優雅にコーヒーを飲んでいられるんだよ。

おっと、そろそろ時間になるね。

今日はここまでにしようか。もう、コーヒーも飲みきってしまったよ。

明日?君、明日もここに来る気なのかい?

本当に暇人なんだな。いいよ。それじゃあ、明日は同級生の話をしよう。とにかくビックリするよ。なにせ、あんな事をいう人がいるなんて思いもしなかったからね。それに、ぷふ・・・いや、ただの思い出し笑いだから気にしないで。

それじゃあ、また、明日、この時間にあの場所で会おう。


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