203号室 マイゴーストライター①
「うーん、、、思いつかねぇ……」
売れない小説家の俺は自宅でPCとにらめっこしていた。
2か月後には小説を一作書き上げなければならないが、そんなこと俺にできるわけがない、アイデアが浮かばないのに何を書けばいいのかと毎日愚痴るばかりだ。
「くそ、やってられるか!!」
俺は机から離れてベッドに横になり、スマホをいじり始める。
小説に行き詰まったらダラダラしながらネットサーフィンをするのがお決まりとなっている。
ネットサーフィンをしている時にアイデアでも浮かべばいいものだが、そんな簡単にいくわけもなく…
気づけば寝ていることがほとんどだ…
「小説 書ける方法…っと……なに頭悪い検索してんだ、バカか俺は」
無意識に検索していた単語の並びを見て自分自身に呆れ返った。
しかし、気になるサイトが目に付いた。
それは検索して一番上にヒットしたのだ。
マイゴーストライター
─『これであなたもプロの小説家!?』
自分だけのゴーストライターを作って、売れっ子小説家に!!─
「ゴーストライターか…そういや代わりに執筆することを仕事にしてる人もいるんだっけ、著名人のエッセイのほとんどを書いてるとか書いてないとか…」
俺は売れない小説家で確かに売れたいとは思っているのだが、これまでゴーストライターに頼んでみようなんて考えたことなかったしそんな事頭になかった。
とは言っても今の現状アイデアが浮かばなくて行き詰まっている、、、
そのサイトに飛ぶ以外の選択肢は無かった。
白背景に『マイゴーストライター』というタイトルがデカデカと掲げられていて、ページの右下には「株式会社ゴースト」と記載されている。
他にはログインページと会員登録ページに飛ぶリンクしかない。
誰が見たとしても怪しいと思うであろう。
もしかしたら詐欺サイト、もしくはウイルスでもばらまいているような悪質サイトではないかと疑ってはいたが好奇心から試しに会員登録してみることにした。
名前、住所、年齢、今の職業、理想のゴーストライター……etc
俺は間違いの無いように慎重に記入欄を埋めていった。
ちなみに理想のゴーストライターは無難に万人受けすると言うふうに書いておいた、正直売れれば後はどうでもいいのだ。
登録が完了したあと今更注意事項が画面いっぱいに広がった。
・ゴーストライターを利用していることを人に言ってはいけない
・短期間にゴーストライターを頻繁に利用してはいけない
・ゴーストライターを1度に利用出来る制限は2体まで
・ゴーストライターはあなたの理想とする小説を書くだけの存在なので意思疎通をすることは出来ない
・姿は見ることができるが実体はなくゴーストライターに触れることはできない
・ゴーストライターは小説を書く際に使われるものにしか触れることはできず、他のものに触れようとしても通り抜けてしまう
・小説を書き終わるとゴーストライターはすぐに消滅してしまう
などと書かれていた。
ところでどうゴーストライターを利用するかと言うと後日家にゴーストライターを生成するためのアイテムが送られてくるらしい。
ワクワクしながら寝た俺はその日、売れっ子小説家になる夢を見た。
* * * * *
「つ、ついに来た…!」
例のゴーストライターのアイテムが入っていると思われる小包が家に届いた、とは言ってもとても小さなもので重さは300g程度しか無さそうなものだった。
開けると中には禍々しい魔法陣が書かれた紙と真ん中に丸い穴の空いた台とマッチが入っていた。
「これは……怪しすぎる…」
まるで厨二病をこじらせた少年が遊びで作ったイタい妄想グッズを送り付けられたのではないかと不安でしかない。
そして、よく考えてみれば無料だった事を思い出した、会員登録しただけで当然のように送ってきたのはおかしな話だ……
後悔と恐怖が俺を支配している、後々俺の身に何かの危険が及ぶ事があるかもしれない、、、
「俺死ぬかもしれないな……」
目の前にある厨二病グッズをじっと睨みしばし考える…
「まぁ、今の現状売れない底辺小説家だし死んでもいいか!!」
売れない小説家である俺は夢も希望もない人生を歩むくらいなら潔く死んでもいいと思った。
吹っ切れて救いようの無いバカと変貌を遂げた俺は小包から道具を取り出して、底に入っていた説明書を読んでみた。
─魔法陣が書かれた紙を台に置いて、魔法陣の中心に自分の髪の毛または爪を置きマッチで紙を燃やすと煙の中からあなたのゴーストライターが出てきます。
その後はゴーストライターはひたすら小説を書き続けますので好きなように時間を過ごしてください。─
実にシンプルな説明ですぐに覚えることはできるが、自分の髪の毛とか爪を置くというのはさすがに気持ち悪い、オカルト好きの間では有名な都市伝説『ひとりかくれんぼ』でも自分の髪などをぬいぐるみに入れるのだが、降霊術や呪術などの類と同じなのかもしれない。
「これはまじでやばいかもしれないな…まぁ髪の毛一本くらいならそんなに影響はないかな…」
それでも俺は恐る恐る髪を一本引き抜いて、ゴーストライター
召喚の準備を始める。
* * * * *
「よし、やるぞ…」
台に置いた紙にマッチの火を当て燃やすとどう考えてもおかしい量の煙がでてきて、目もかゆくなり咳がとまらなくて呼吸ができずに苦しい状況になってしまった。
「これはまずい…一酸化炭素中毒になる前に窓を…」
姿勢を低くして窓を開けようとした時、煙が徐々に収まって呼吸もできるようになってきた。
「はぁ…ほんとに死ぬかと思った…燃やした紙はどうなっ……」
俺の目の前には体が透けた俺が立っていた。
「俺だ…俺がいる!!」
どうやら本当に召喚できてしまったようだ、目の前で手を振っても反応はない。
立っているだけかと思いきや静かに移動を始めた、足を動かさずにホバー移動のような感じで確かにゴーストみたいではある。
いつも小説を書いている場所に移動したゴーストの俺はキーボードに手を伸ばすとせっせと小説を書き始めた。
「ゴーストの俺すげぇな…」
PCの画面をチラッとみてみると、毎分1000文字くらいのペースで人間が到底敵わないとてつもないタイピング速度によって文章が書かれている。
この信じられないような光景を眺めつづけるのも悪くないが俺はゴーストの俺が小説を書き終わるまでの間出かけることにした。
* * * * *
やらなければいけない仕事を放り出して、遊びに出かけることに罪悪感を感じながらも2時間ほど出かけていた、俺が罪悪感を感じていたのは気のせいかもしれない。
帰宅するとゴーストの俺の姿はどこにも見当たらず、電源のついたPCだけになっていた。
一応確認のために小説を軽く流し読み始めたのだが、これまでの俺の小説とは思えないほどの面白さでテンポよく進むストーリーに集中して、俺は途中から真剣に読んでいた。
「これは面白い…!!ベストセラー間違いなしだ!!!!」
ゴーストライターに書いてもらったとはいえゴーストライターの俺が書いたということには違いない、俺はすぐに編集にメールで小説を書き終えたことを伝えた。
2ヶ月後の出版予定だが構わない、とにかく今はこの素晴らしい小説を編集に読ませて驚かせたかったのだ。
しばらくすると編集からメールが届いた。
「お疲れ様です。寝言は寝ていってください。くだらない事をメールしてくる暇があったら小説を書き進めてください。以上よろしくお願いします。」
めちゃくちゃ辛辣な返信に俺は泣きそうになった。
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