201号室 ルイトモ

「おいおい!!見ろよこれ!ついにワクワク生放送で一挙放送あるらしいぜ!これは見ないとなぁ~!」


昼休みの時間、教室ではクラスメイトがそれぞれ好きなように昼休みを過ごしている中、俺は友人の翔太にスマホの画面を向けながら教室に響き渡るほどの大きな声で話しかけた。


「なんだ、またそのアニメの話か?悪いけど俺はロボットアニメしか見ないからな、興味ないぞ。」

読んでいた本をパタリと閉じスマホの画面を見るや否やため息をついて、手を横に振りながら全く興味を示していないことを俺に言う。


いきなり大声を出したせいで一瞬教室が静まり返って、俺と翔太は注目を浴び少々恥ずかしいことになったが、翔太はそんなことは気にせずに読んでいた本に視線をうつし、また黙々と読み進めていく。



基本的に翔太とアニメの好みが合わず、おまけにうるさく落ち着きのない俺とは正反対で常に冷静沈着でおとなしい翔太だが決して仲が悪いということはない、家が近所で小さい頃から一緒に遊んでいるのでむしろ親友といっても過言ではない。



「翔太も日常系のゆったりとしたアニメ見ればいいのになぁ…頭からっぽにしてみれて面白いよ?」

「俺はしっかりとしたストーリー構成にキャラがプラスされ面白さが増すような見入るアニメが好きだ、自分なりの考察をしながら話を追うのが俺には合っている」

「釣れないねぇ~、ま、いいや!無理強いしても仕方ないしな!!」



翔太の肩を数回叩いてこの話は終わりと行動で表したが、翔太は呆れた表情をしてこちらを向く、しかしこれも昔からのことで互いに慣れている。



そんな話をしていたら昼休みが終わる合図のチャイムがなって、クラスメイトが席について授業の準備をし始めたため俺も急いで授業の準備をした。



* * * * *



学校が終わり帰宅後、早めに風呂と夕飯を済ませて、ワクワク生放送のアニメ一挙放送に備える。

デュアルモニターで右側に生放送、左側にはSNSを開いて好みが同じネットの人たちとアニメの実況をしながら見るのがお約束となっている。



「これがリアルならいいよなぁ…」

現実との違いから思わずつぶやく、しかし現実はそう甘くはない、好みが違う人とも上手く付き合わないといけないのは充分わかっている…はずだと信じたい。



そんなことより一挙放送が始まる、12話一挙放送で夜20時から6時間ぶっ続けで見るのは中々ハードではあるが、アニメ愛でなんとか持つだろう。

まるで根拠がない話だが一挙放送を見始める─




「しまった…!寝てしまった!!」

案の定寝落ちしてしまったようだ、SNSのログを確認するとほとんどの人が起きてて実況していた、アニメも内容からして10話と言ったところだ、約1時間半ほど寝ていたということになる。


半端なところで寝落ちして、半端なところで起きてしまった以上アニメを見続けて実況もすることにした。




一挙放送が終わって、アニメを見ながらネットの皆で実況して盛りがった余韻に浸りつつベッドに入った。


俺は数時間前のようにまた同じことを考えていた、同じ好みの人が身近にいればさぞ楽しい人生を送れていただろうなどと、もしもの世界を想像しながら眠りについた。



* * * * *


「おはよー!!翔太!」

先に学校に来てた翔太の元へ駆け寄り挨拶する、相変わらず本を読んでいた。

「おはよう」といつも通りのテンションで返事をする。


「昨日の一挙放送やっぱり良かったぜ?タイムシフト予約もしてあるから翔太も見─」

「─いや、何度も言ってるけど俺はあのアニメは見ないんだ、もうほっといてくれよ。」


翔太は俺の話を途中で遮り嫌悪感を示してくる、なんだかいつもより冷ややかな態度を取られているような気がした。

俺もこれ以上翔太の気を損ねまいとその場から立ち去った。



俺は机に突っ伏して寝ていた、アニメの話が出来ない事、翔太からきつい事を言われたことが深く突き刺さる、その時肩をポンポンと叩かれ顔を上げると見たことない男2人がいた。


「ねぇ、君昨日の一挙放送見たんでしょ!!?俺達も見てさ、話し相手増やしたいよなって言ってたんだ!!よかったら話さないか!?」

「え…?う、うん!是非とも!!」


よく分からないがこの人たちは俺によく似ている。


性格も好みも。


話を聞くとどうやら同学年でほかのクラスの人らしい、少し話しただけで意気投合して共通の趣味、話題で盛り上がった。

自分の好きな話が出来ることに幸せを感じ、休み時間が訪れる度に廊下に集まって話していた。


しかし俺は翔太が何しているか気になる事があった、話で盛り上がっている中少し翔太がいる方へ視線をやると翔太は俺の知らない人と話していた。


それも笑顔で。

実に楽しそうに話していた、本を指さして何か話しているところを見ると本について盛り上がっているようだ。



翔太もあんな笑顔になることがあるのかと少し寂しさを覚えながらも好きなアニメの話題に花を咲かせた。


* * * * *


今日は授業が3時間目までしか無く14時には帰宅できる、俺は翔太を喫茶店に誘おうと考えていた

「翔太ー、今日駅前の喫茶店で新作のメニュー飲もうぜ!!」

「え、いや…今日は…」

翔太は言葉が詰まっている、それに困った表情を見せて何を言おうかと考えている。


「お待たせ斉藤くん、じゃあ行こっか…ってあれ?この人は?」

翔太の元に来たのは休み時間に翔太が楽しそうに話していた人だった。


「えっと…おそらく友達なんだけど…喫茶店行こうって誘われた…」

「え?この人が友達?見るからに性格が違うのにそんなわけないでしょ、はやく本屋行こうよ」

翔太は強引に手を引かれて連れていかれてしまった。


俺は自分が置かれた状況に違和感を感じる、翔太が俺を友達として見てくれていないのだ、翔太の友達(?)の発言からして俺と翔太が友達なのは普通じゃないということになっている。


今朝、俺に話しかけてきた2人もそうだ、底抜けに明るい性格は俺に似ていた、非常に話しやすく好みも同じだった。


ここで俺は一つの言葉が頭を過ぎった。


『類友』


原因は分からないが、この意味が顕著に現れている世界になってしまっている。


実に楽しく過ごせた1日だったが、一つの友情が壊れてしまった気がしてならなかった。


* * * * *


帰宅後、いきなりの出来事にパニックになって混乱していた自分を落ち着かせるためにコーヒーを1杯飲む。

なぜ『類友』がここまで現れた世界になったのか考えてみる。


俺が昨晩に強く願いすぎたのか、又は俺は悪い夢を見ているのか、どちらにしろ気分がいいものではない。



そして、このまま気が合う人たちと学校生活を送っていくのか、昔からの友人との関係が壊れていない普段の生活がいいのかは深く考えるまでもない。

もちろん後者だ。


友達は多ければ多いほど良いということも無い、決して友達が少なくても互いに心を開いて信頼できる相手がいれば充分ではないかと思った。


自然と涙が出て、頬を伝い机に零れる。

どうか元に戻ってくれ。


今はそう思うばかりだった。



* * * * *



翌朝、翔太との友情が壊れたままではないかと不安でいっぱいで目覚めるのが怖かった。

制服に着替え不安な気持ちを抱えたまま学校へと向かう。


教室を覗いてみると翔太がいつも通り本を読んでいた。

友達と思われていないかもしれない。


確認するためには声をかけてみるしかないと思った俺は勇気を出して翔太に「おはよ…」と小さな声で恐る恐る言ってみた。


「あぁ、おはよう、何だか元気ないね?どうかしたの?」

至って普通の返事が返ってきた、俺は胸をなで下ろす、だがクラスメイトだから挨拶するのは普通の事なのかもしれない、喜ぶにはまだ早かった。


「あ、あのさ…昨日翔太が一緒にいた人の話なんだけど…」

昨日のことを切り出してみる、その時の俺はキョロキョロと辺りを見回し落ち着きがなかったため翔太には俺の姿が怪しく映っていたかもしれない。


質問を投げかけた後、緊張のあまり時間の進みが遅く感じた、すると翔太は何事かと目を丸くさせて答えた。

「…え?昨日いた人って誰かいたっけ、分からないや。」

翔太の記憶からスッポリと抜けているようだ、もしかして俺が昨日話した2人は俺のことを忘れているのではないかと思い2人がいるクラスへと急ぐ。


教室には2人が楽しそうに話していた、元から友達だったからなのかまだ『類友』の世界なのかは分からない。

「あの!そこの2人ちょっといいかな!」と慌てて2人を呼び出す。


「俺のこと分かる!?知ってる!?」

「はい?どちらさん?人違いじゃない?」

1人が俺のことを明らかに警戒して見てくる、しかしこれで元の世界になったという証明ができた。

「ありがと!」俺は2人に説明もせずに立ち去る、これからあの2人にはおかしな人というレッテルを貼られることだろう。



「翔太!!」

短時間でバタバタと走ったため息を切らして教室へ戻る、ただ自分が体力なさすぎるだけだと思うが。


「ごめんな、翔太!俺はいつも自分の好みを押し付けて自分の話ばっかり…今更だけど間違いに気づいたんだ!!」

「えっと…よく分からないけど、、うん…」

俺が1人で青春ごっこをしてることに翔太はビックリしている。とにかく元に戻ってよかったと心から思う。



あの出来事以来、俺は性格、好みの違いというものを完全に受け入れ、もしも好みの合う人がいたらなぁと思うこともなくなり、翔太との付き合いをより大事にしていった。

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