105号室 ユーレイじーちゃんと僕

今日はお盆で5年前に死んでしまったじーちゃんのお墓参りをするためにじーちゃんの家に来ている。ちなみに今はばーちゃんが1人で住んでいる。

五年前、僕はまだ小さかったからじーちゃんと過ごした日々はよく覚えていないけど楽しいことはたくさんあったと思う。


「……寝ちゃってた、あれ?みんないないのかな?」

家の中はシーンと静まりかえっている、どうやら昼寝している間に家族みんな出かけたみたいだ。


「もしかして僕をおいてお墓参りしに行っちゃったかなぁ、最近のこととか報告したかったのになぁ…」

「いや〜すっかりおっきくなったねぇ、元気してたかい?」


僕の頭よりちょっと上の方から声がしたような気がする、ふと上を見てみる。

「久しぶりだねぇ、けんた」




…僕の上にじーちゃんがいた。




「えっ…じーちゃん!?なんでじーちゃんがここにいるの!?え、えっと…」

目の前で起こっていることが何なのかサッパリわからなかった、なんで死んだはずのじーちゃんがここにいるんだろう…


「じーちゃん生き返ったの?でも白い服着てるし浮いてるもんね…もしかして僕が死んじゃってじーちゃんが見えてるの!?」

僕は死んでしまったかもしれないという不安があって涙目になりながらじーちゃんに聞いてみた。


「ハッハッハ!!そんなことはないよ、今日はお盆だ、お盆ってのは死んだ人が家族の元へ帰って来られる日なんだよ、だからけんたに会いに来たんだ。」

高らかに笑ったあと笑顔で優しく僕に言ってきた。


「てことは僕は死んでなくてじーちゃんが僕に会いに来てくれたんだね!あ、でも今みんなお墓参りしに行ってるはずだよ?お墓のとこにもじーちゃんがいるの?」

「いやぁ、さすがにじーちゃんも分身はできんなぁ、だから今お墓にはじーちゃんはいないんだよ」


ということはじーちゃんは今僕とだけ話しているってことだと思うとなんだか嬉しくなってきた、お墓参りに行かなくても報告もできるとウキウキしている。


「ところでけんたは今何歳になったんだい?ごめんね、死んじゃうと記憶も曖昧になっちゃうんだ。」

申し訳なさそうに言ってきた、じーちゃんは僕の話を聞きたい様子だった。


「10歳だよ!今は四年生なんだぁ!!」

すっかり大人だと言わんばかりに胸を張って言った。


「ほうほう、けんたもお兄ちゃんになったね、小学校は楽しいかい?友達は何人いるのかな?勉強の方はどうだ?」

元気よく返事する僕を見て嬉しくなったのかじーちゃんはドンドン質問してくる。

僕もそれが嬉しくて次々と答える。


「楽しいよ!友達と毎日外で遊んだりしてる!!勉強は…学校で配られた夏休みの宿題が難しくて…」

お父さんとお母さんは勉強しなさいって言ってくることはないが宿題にまったく手をつけてないとなると話は別になってくる…


「なんだけんた宿題分からんのか!よしじーちゃんが見てやるぞ!!」

「えっ、でも理科とか算数だよ?じーちゃんわかるの?」

「なーに、心配しなくても大丈夫だよ、じーちゃんは昔学校の先生をしてたんだから!ほれ、ちょっと見せてみなさい。」


わかった!と元気よく返事をして宿題をとってきてじーちゃんに見せてみる…が今と昔じゃ教えてる内容が違いすぎてじーちゃんは困った反応を見せた後笑って誤魔化した。


「なんだー!じーちゃん全然わからないんじゃん!」

「ごめんなぁ、じーちゃん全然勉強できないな!これなら父ちゃんに聞いた方がいいな!」

家中に笑い声が響いた、僕は今家に1人のはずだけど1人じゃない、死んだはずのじーちゃんがまるで生きているかのように、ごく普通に僕と話して楽しい時間を過ごしている。


「いやぁ、じーちゃんはけんたが元気にしてることが分かって安心した!これでまたあの世に帰っても大丈夫だ」

「あの世って天国?天国って楽しい?」

僕は天国がどんなところかわからない、死んだ人が行くところっていう事しか分からないからこのタイミングで聞いてみた。


「天国はいいところだ、のどかでいい人ばかりだ…でもね、やっぱりじーちゃんは家族みんなともう少し長く過ごしたかったと思ってるよ。」

急にしんみりした雰囲気になってじーちゃんはそう言った、じーちゃんに聞いてはいけなかった事だったのかなと思い、僕も悲しくなって泣きそうになってしまった。


「そうなんだ…僕が小さい頃にじーちゃんいなくなっちゃったし…じーちゃんもみんなともっと遊んだり話したりしたかったよね…」

ごめんなさいという意味を込めてじーちゃんに言った、だけどじーちゃんは笑顔でこう言った。


「なに泣きそうになってるんだけんた、別にいいんだよ、今こうしてじーちゃんがけんたのところに来てたくさん話したじゃないか、じーちゃんも思い出が増えて嬉しいんだよ?」

「じーちゃん…ありがと…会いに来てくれてありがと…!」

じーちゃんの優しさが身にしみて僕は感極まって泣いた。


「よしよし、もう泣くなけんた、じーちゃんと話してくれてありがとうね、じーちゃんもそろそろ帰らなきゃ行けないなぁ、けんた、ちょっと手を出してみなさい。」

言われた通りに手を出す、僕の手のひらに何かが置かれたような感覚がした。

しかし、手のひらを見ても何もなかった。


「…?いま何したの?何もないよ?」

「じーちゃんが願う幸せや感謝の気持ちをこめたんだよ、家族がこれからずっと幸せな人生を送るためのおまじないさ。」

おまじない…じーちゃんはホントにみんなのこれからの人生を楽しく笑顔で過ごしてほしいと思ってるんだと思った。


「じーちゃんホントにありがとう!!また来てくれるよね!僕待ってるからね!」

「次のお盆にまた来るさ、それまで怪我や病気に気をつけて元気にね、それじゃあまたね、けんた」

「じーちゃん、またね!」

そう言うとじーちゃんは光に包まれて消えてった、この事を家族に話しても信じてもらえなさそうだけど、僕はとても幸せな気分になれた、幸せな時間を過ごせた。


* * * * *


「ただいまー!!!お兄ちゃーん!!」

玄関の方から元気な妹の声が聞こえてきた、みんなが帰ってきたようだ。


「おかえり!ねぇ聞いて!!今日じーちゃんが僕のところに来たんだ!それでたくさん話した!!!」

僕は興奮気味にみんなに話した、けどお母さんは「あんた寝てたから夢でも見てたんじゃないのぉ?ここに来るわけないじゃない」と言う、やっぱり信じてもらえるような話じゃないかなと思った。


しかし、ばーちゃんは「おや、あの人が会いに来てくれたんだね、やっぱり可愛い孫に会いたかったんだねぇ」と僕の話を信じてくれた。


「えー!お兄ちゃんおじいちゃんと話したの!?ずるいー!!!おじいちゃんと話したいー!!」

妹がとても羨ましそうに僕に言ってきた。


「次のお盆にまた来るって言ってたよ!」

「おぼんってあしたー?!それともあしたのあした!?」


「みきは明日って言うの好きだなぁ!来年だよ、ら!い!ね!ん!」

「らいねんってわからないー!あしたのこと?!」

妹がそう言うとその場が笑い声と笑顔で溢れた、和やかな雰囲気になって気持ちがいい。




じーちゃんのおまじないってこういう事かなと思いながら僕はベランダに出て空を見上げる。




家の中から聞こえる家族の笑い声と一緒にじーちゃんの笑い声が聞こえたような気がした。

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