104号室 オトシモノ

「やっべぇこのままじゃ遅刻だ…!」


寝坊してしまった俺はダラダラと汗をながしながら必死に走っていた。

ようやく駅につき改札を通ろうとしたがICカードが見当たらない。


「あ、あれ!?もしかしてどこかに落としてしまったかなぁ時間ないのに…仕方ない、切符買うか…」


切符を買おうとした時に「すみません、これ落としましたよ。」と声をかけられた。

振り向くとそこには中年の男性がICカードを手に持って立っていた、どうやら拾ってくれたようだ。


「あぁ、どうもすみません、ありがとうございます。」

「いえいえ、いいんですよ、意外と落し物ってしちゃいますよね、これからは気をつけてくださいね。」

そう言うと男性は駅を出て行った。




あの人には助けられたなと感謝しつつ急いだが結局会社には遅刻した。


* * * * *


翌日、寝坊することなく時間に余裕を持って駅に着いた。

しかし朝の電車はいつ乗っても慣れない、ぎゅうぎゅうに詰められて息苦しい中立っているのが田舎から上京してきた身としてはどうしても苦手だ。


-1番乗り場に電車がまいります。黄色い線の内側までお下がり下さい。


ホームにアナウンスが鳴り響く。

俺は心の準備をして身構え、電車が駅に着きドアが開くと同時に人が一斉に流れていく。

俺は流れに身を任せて電車へと乗る。


「い…をお…しま、し…よ…」

駅員が声を張っている中後ろからかすかに何かが聞こえた。

電車に詰め込まれ乗った後、外を確認するとこちらをじっと見つめる少女がいた、そして手には何かを持っていたがハッキリとは分からなかった。


電車が動き出しても少女は俺を目で追ってきた。

なんとも言えない恐怖感が俺を襲ってきて、俺は少女から目をそらし今の出来事を必死に忘れようとした。


* * * * *


3~4駅ほど先に行けば人も徐々に減っていきようやく一息つけるようになる。

降りる駅まであと2駅といったとこまで着いた、しかし毎朝通勤するだけで疲れるのは勘弁だ…そんなことを思いつつふと駅のホームを見るとあの少女が立っていた。


「なんであの子がいるんだ…どうやって来たっていうんだよ…」

ドアが開くと少女が乗ってきて俺に話しかけてきた。


「すみません、命を落としましたよ。」

手には光る球を持っている。

この子は何を言っているんだ、命を落とした?そんなわけがない。現に俺はこうして生きているのだから。


「面白いことをいう子だね、というか君一人なわけないよね?お母さんはどこにいるの?別の車両に乗っているのかな…?」

「お母さんは死んだの、お父さんもいない。そして私もその時死んだの。みんな死んじゃうの。」


なに不気味なことを言っているんだ…信じるわけないが冷や汗が止まらない。


「だからあなたは命を落としました。あなたの命です。」

持っている光る球を差し出して、もう1度言ってきた。少女は悲しげな表情を浮かべている。

「大人をからかうのもいい加減にしろ!言っていい事と悪いことがあるぞ!」


俺は声を荒げて少女の手を払いのけると少女は球を落としてしまい割れてしまった。

そんなこと気にせずその場を離れ違う車両へと移動した、その時だった、電車が傾き大きな音を立てながら脱線したのだ。



俺は打ちどころが悪く意識が朦朧としている。



目の前にはさっきの少女がいる。



「命、落としましたよ。」



手には割れたはずの球があった、球は綺麗に戻っていて眩い輝きを放っていた、しかし俺はそれに手を差し伸ばすことはできなかった。

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