102号室 自分リメイク②

カーテンの隙間から差し込む日差しがまぶしい、どうやら今日は晴れのようだ。


「いいリメイク日和だ。」

ついついわけのわからないことを言ってしまったが、今日から俺は仕事ができる男になるのだ。


新卒のようなやる気に満ち溢れた顔で会社に向かう。


* * * * *


「おい、高木!この書類たのむぞー、あと14時に会議だから部屋を抑えといてくれ。それ終わったらまた別の書類があるから今日中に提出しろよ~」


「はい、わかりました。」

今までの俺なら確実に残業コースだ、だが今はリメイクが完了し仕事をこなせる俺になっている…はずだ。


「高木くんまた本田課長に無理言われてるね…前にも言ったけど困ったら私を頼ってね?」

「ありがとうございます、ですけど今日は残業を回避できる気がするんです。今日の俺は一味違いますよ!」

「そうなの?なんだか高木くん変わったね~それじゃ頑張ってね!!」


ちゃんとリメイクされているのか分からないのに調子に乗ってしまった、これでもし反映されてなかったら、、後で雪村さんを頼るのも恥ずかしいぞ…


今は仕事に対するやる気より不安が大きくなっている、自分の発言に後悔しつつ仕事にとりかかった。


* * * * *


「か、課長、、これ頼まれてた書類です…」

「は?お前がこんなに早く作業を終わらせるわけがないだろ、馬鹿にするのもいいかげんに……完璧に仕上がってる…」


いつもなら全部の作業通して4時間はかかっていたぞ、それが1時間弱で終わってしまうなんて…


ほんとに自分がリメイクされていた。

自分リメイカー、、、これはすごいものをもらってしまったようだ、まぁせっかくもらったものだしとことん活用することに決めた。


「高木!今日は残業もないし飲みに行けるよな!?ていうか行くぞ!!さぁ急ぐぞ!!」

山崎と一緒に飲みに行くと無理にでも飲まされるのが悩みだ。


「いいよ、今日は気分がいいからたくさん飲めそうだよ。」

カバンから自分リメイカーを取り出し『酒に強くなる』と設定、すぐさまリメイク完了だ。


* * * * *


「ほんと今日はめっちゃ飲むな〜高木!仕事もすぐに済ましてたし、なんだかお前別人みたいだな!!」

ほろ酔いの山崎が笑いながら言ってきた。


「そうかなぁ、まぁ気持ち入れ替えて何がダメか考えて反省したって感じかなー、酒が結構飲めるのも気を張って気をつけてるからかな…?」


さすがに自分リメイカーなんてものを使ってるとか言えるわけがなかった。


「今日はありがとな高木!それじゃまた明日!!!」

3時間ほど山崎と飲み、実に充実した時間を過ごした。


「ただいまぁ…さすがに飲みすぎたかなぁ…」

後になって反省する、自分リメイカーを使うと調子に乗ってしまうのがダメなところだ。


しかしなんで上野は自分リメイカーなるものを開発して、それを無料で配ろうと考えたのかとふと思った。

気になって仕方がなかった俺は、明日上野に直接聞きに行くことにした。


* * * * *


翌日、仕事をさっさと片づけ上野のところへ向かった。

「すみません」と一言、この前と同じように奥から上野が出てきた。


「おやおや~いらっしゃい、今日はどうしたのかな?」

上野が笑顔で迎える。


「あの、今日は気になったことがあって来たんですけど、なんで上野さんは自分リメイカーを作ってそれを無料であげようと思ったんですか?」

唐突ではあるが俺ははやく聞きたかった。


「あぁ、やっぱり気になっちゃった~?単純に自分のダメなところをなんとかして変えたいな~って思っただけだよ、人間誰しも一度は完璧になりたいって思うことはあるでしょ?」


上野が言ったことは一理ある。

実際俺もダメな自分が嫌でもっとできるヤツだったらと思ったからここに来たわけだ。


「あと、なんで自分リメイカーを無料であげてるかなんだけど、こんなに素晴らしいものを私一人で使うのはもったいないと感じてね、みんなにも使ってもらって少しだけでも楽しいと思える人生を送ってほしいと思ったからなんだよね。」

上野はいつものようにニッコリと笑顔で言ってきた。


上野は変わり者ではあるがいい人なんだと思えた、別に警戒心をもって接していたわけではなかったが、上野に対するイメージはいいものへと変わった。


「そうだったんですね、話してくれてありがとうございます。自分リメイカーを使い始めて仕事でもずいぶん助かってますし感謝です。」


深々と頭を下げながら感謝の気持ちとこれからもありがたく使うという事も伝えた。


「気に入ってくれてありがとね、そういえばこの前言い忘れていたけど、理想は重ねがけができるからすでにリメイクした能力をさらに上げることできるからやってみてね〜」


そんなことができるのか、それならもっと仕事をこなせるようにしてみようと思いながら上野と別れ、家に帰った。


* * * * *


久々に料理を作ろうかと思った、なんだか麻婆豆腐が食べたい気分だ。

『料理がうまくなる』

リメイク完了、料理を始める…味付けが最高だ、料理人にも引けを取らない腕前だ。


麻婆豆腐を完食したあと「理想は重ねがけができる」という事を思い出し『仕事をさらにこなせるようになる』と設定。


「これで俺はエリートだなぁ、出世コースだ!」

気づけば俺はまた調子に乗ってしまっていた。


* * * * *


「おい高木ぃ…昨日はすぐ仕事済ましてたのに何してんだぁ?さっさと終わらせろ!!」


「すみません、、なんだか調子悪くて…」

なぜか仕事がこなせなくなっていた。

すぐに自分リメイカーをチェックする、設定はされている、何かのエラーかもしれないと思い、また設定をする。


「リメイク完了!」


反映されたようでなんとか仕事をこなした、しかし身体への負担が大きい、リメイクの代償なのか…?でもそんなこと聞いてないぞ…


「もしかして、この身体の負担もリメイクすれば感じる事はなくなるんじゃないのか…?」

こんなことして大丈夫なのか分からなかったが疲れを感じなくするには自分をリメイクするしかない…


『疲れを感じなくなる』

「リメイク完了!」

これで疲れは感じなくなるはず…!


設定は反映されたようで疲れは感じなくなった、これで一安心だ。

今日も残業はないのですぐに帰ることにする、リメイクに関して考え直そうと思った。


「高木くん大丈夫?顔色悪いよ…?最近仕事頑張ってるみたいだけど無理しないでね…?」

雪村さんが心配そうに言ってきた。


「えっ、顔色悪いですか?そんな疲れてるわけではないんですけどね、、でもご心配ありがとうございます。家に帰ったらすぐ寝ることにします。」


帰宅後、自分リメイカーについて考える、これがあるおかげで仕事もうまくできるようになった、しかしながら今日の身体への負担を考えたら頼りすぎるのはいけないと思ってきた。


いくら仕事ができるようになったとはいえ自分リメイカーのおかげだ、自分の力で成長したわけではない。


そして、このまま使い続けると負担が大きくなり自分が壊れてしまうのではないかと不安が募る。

ここで俺は決意した。


「自分リメイカーを返そう。」


俺は「できる自分」との決別、ダメな自分なりに努力で成長すると決めた。


そうと決まればすぐに上野のところへ向かう。

「あれ?こんな時間に珍しいね、今日はどうしたんだい?」

不思議そうな顔をしてたずねてくる上野。


「上野さん、自分リメイカーを返しに来ました。もう俺には必要ないと感じたんです。」


「えっ!?今このタイミングで自分リメイカーを手放していいかい?後悔しても私は知らないよ?」

驚いた様子で聞いてくる、俺は「はい」と返事する。覚悟は決めているのだ。


「そっかぁ、君ならまだ使えると思ったんだけどねぇ、そう言うなら仕方ないね。それじゃリセットボタンを押して理想をリセットしてもらっていいかな?自分リメイカーは使い回しだからね〜」


リセットボタン…?そんなものあったかと画面を確認すると下の方に【リセット】ボタンがある。

これを押したら理想がリセットされ前の自分になるのか…と思いながらもボタンを押し上野に返す。


その瞬間、これまでに感じたことない焦燥感に駆られた。


「い、今の俺に何が出来るんだ…?いや、何も出来ない…ダメな自分なんて誰の役にも立たないんだ…や、やっぱりアレがないと…」


自分リメイカーを使いたいばかりに上野にしがみつく。

「上野さん…また、自分リメイカーを…自分リメイカーを使わせてくれ…!!!」


「う〜ん、使わせてあげたいのはやまやまなんだけどね、もう君はダメだ、人として終わったんだよ?」

いつもの笑顔だがそれがとても恐ろしく見えた。


「そ、そんな…お願いです…どうしても使いたいんです!」

そんな願いもむなしく上野は聞く耳を持たない。


「君さ〜リメイクの代償を理想でかき消したでしょ?ダメだよあんなことしちゃ、疲れは感じなくなるけど負担がかかっているのは変わらないんだから心身共にボロボロだよ?」


上野が言うにはホントのところ、短い期間でリメイクしすぎると理想がリセット…ではなく身体への負担が代償となるということだった。


上野は俺のリメイクの情報を常に監視していた。今朝リメイクがエラー起こしたのも上野の仕業だったらしい。あの時リメイクしなければ負担がかかることもなかったようだ。


「君が自分リメイカーをどう使うか見てたけど、君は自分リメイカーに頼りすぎたんだ。自業自得だよ?まぁ「少しだけ」楽しい人生を送れたでしょ?お疲れ様でした〜」



「終わった…俺の人生終わったんだ…」

俺は外に追い出され絶望した、これが人生のどん底に叩き落とされた時の絶望感なのかと痛感した。



「今回もダメだったか〜やっぱり自分リメイカーをうまく使いこなせる人っていないのかな?…まぁいいや、次は誰にしようかな…」


* * * * *


「本田課長、今日で会社やめます、ありがとうございました…」

「何言ってんだ!勝手な事は許さんぞ!!おい!!まて!!」


本田課長の言葉は届かない。

俺はオフィスをでた。



風が強く吹き付ける、そして人や車が小さく見える。

「こっから見る景色ってなかなかいいじゃないか…」

思い返すと最近はそれなりに楽しかったし悪くはなかったかな…




それじゃあそろそろ




「人生をリメイクしようかな…」

少し身体を前へ倒す…


まるで時間の流れが止まったかのような感覚だった。

俺は静かに目をつぶる…







-リメイク完了!

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