非現実タワーマンション

まさ

101号室 自分リメイク①

「おい、高木!お前例の書類はどうした?!今日までに提出しろと言ったはずだろ!!」


「すみません、、他の作業に追われててまだできてません…」


「なんだと?他の作業も任せたとはいえすぐに終わるものだったろう!さっさと書類仕上げてこい!」


小さなオフィスに本田課長の怒声が響き渡る、周りの人達は特に反応もせず、この状況に見慣れた様子でいる。


「はぁ、、、そんな簡単に終わるわけないじゃん…理不尽だ、このまま楽しくもない仕事やるだけで俺の人生は終わっていくんだろうか…自分がもっと仕事できるヤツだったら人生変わっていたのかな…」

自分の机に戻ると同時に深いため息をつきながらネガティブなことをぼやいていた、そんな時横から「おつかれさまです、毎日大変だねぇ…」と声をかけられ、お茶を差し出された。


「あ、雪村さん!おつかれさまです…!」


「本田課長は新人に無理させることあるからねぇ、もし困った時は私を頼ってくれてもいいからね?その時は高木くんを全力でサポートするよ」

「ありがとうございます、本当に感謝してます!」

「それじゃ仕事頑張っていきましょー!」


雪村さんにはいつも癒されている、ほんとにありがたいことだ。

俺はグッと伸びをし、仕事に取りかかった。


* * * * *


「はぁ、やっと帰れる…昼前に書類提出して一段落かと思いきや、また無茶な仕事押し付けられたせいで残業するハメに…」

時計を見ると既に21時を回っていた、オフィスには俺以外誰もいない…と思ったが、どうやらあと1人残っていたようだ。


「うーっす高木!お前も残業かぁ!?早く帰ろうぜ!!!てか今日も課長に怒られてたよなぁ?毎日怒られてるとストレスたまるだろ?愚痴ならいつでも聞くぜ〜??」

腕を俺の肩にかけ、ジリジリと顔を近づけながら言ってきたのはいつも俺にウザ絡みしてくる同期の山崎だ。


「お前も残業だったんだろ山崎、なんでそんなにテンション高くいられるんだよ…その元気を分けて欲しいくらいだ」

山崎のテンションに少々引きながらもさっさと帰る支度を始める。

「あ、そうだ!高木ー!お前今から予定とかないんだろ?飲みにいこーぜ!!酒飲んでストレス発散だ!!」

書類などを適当にカバンにしまいながら言ってきた。


はやく帰ろうだの飲みに行こうだのコロコロ気分が変わるやつだな…

「悪い、今日はいつもより疲れたからまっすぐ家帰って寝るわ、しかも明日も仕事じゃん…仕事に支障をきたすし…」

「マジかよぉ、釣れないなぁ!まぁ分かったよ、俺ひとりで飲みに行ってくるし!!じゃーな!!!」

案外物わかりがいいのが山崎の良さだなぁ、なんて思いながら会社を後にした。


住んでいるアパートまで着くとポストに入っているチラシを全部回収する。

「ふぅー、ただいまぁ…」

一人暮らしなので当然「おかえり」と返ってくるわけないが、ついつい言ってしまう。


部屋着に着替えて一息つき、しばらくするとチラシのチェックをする、たまにスーパーのお買い得商品の情報を得られるので助かっている、まるで主婦のようだと自分でも思う。

「さてと、スーパーのチラシはあるかなぁ…えっと、スーパーのチラシはと…」


様々な店のチラシがある中今まで見たことないチラシが入っていた。


-今の自分を変えたいと思った事はありませんか?そんなあなたにオススメ!自分リメイカー!!今だけ無料で差し上げます!

ぜひともダメな自分を作り直しませんか?-


「なんだこの気味が悪いチラシは、しかも自分リメイカーってダサいし、ありきたりな謳い文句だな…新手の悪徳業者?自分を作り直すってどういうことだろ」


よく分からないけど自分を作り直せるとしたらすごいことだよな、だが詳しい情報はかかれていない。

自分リメイカーを取り扱ってるであろう場所の住所はかいてあった、ここに行けば詳しく聞けるのだろうか…と気づいたら興味を持ってしまっていた。


「うーん、ちょっと怖いけど無料でくれるって書いてあるしもらえるもんはもらっておこうかな、明日仕事終わったら行ってみよう」

何故だかスゴくワクワクしてしまっている、好奇心というものは恐ろしいものだ。


…あのチラシを見ているうちに結構時間がたっていたのでアラームをセットし、明日を楽しみにしながら眠りについた。


* * * * *


翌日、いつも通り残業だった。


夜遅くなってしまったが、あのチラシの住所を頼りに向かうと古びた雑居ビルについた、ここの3階が目的地だ、あたりは人気がなく静まり返っている。


「ホントにこんなところにあるの?怪しすぎる…」


今更帰るわけにもいかないので、勇気を出してビルに入った。


ボロボロのドアを開け「すみませーん…」と言うと奥から人が出てきた。

「あ、もしかして君チラシを見て来てくれたの?ありがとね〜、私が自分リメイカー作ってる上野です。」


ボサボサの髪に薄汚れた白衣を着たなんだか気さくな男だ。


「はい、気になってきたんですけども、自分リメイカーってどんなものなんですか?」

「その名の通り自分を作り変えるんだよ、とはいっても見た目とか性格は変えられないけどね、変えられるのは自分の才能だったり能力といったステータスだよ。」


ステータスってまるでゲームみたいな言い方だ、まぁそれだけでも充分ではある。


「そしてこれが自分リメイカーさ、最近小型化に成功してね、持ち運びは楽だよ〜」


俺が色々聞く前にどんどん話が進んでいってるが手間が省けて良いか…

見せられたのはスマホのような端末だった、これで何をどうするのかさっぱりだ。


「これってどういう風に使うんです?こんなものでほんとに作り変えられるんですか…?」


「使い方は簡単だよー、端末に自分の理想を設定するだけさ、例えば足が速くなりたい!とか大食いになりたいとかね〜、君にあげるから試しに使ってごらんよ!起動すれば説明が出るようにしてあるし安心してね」

上野はそう言って渡してきた、多少押し付けられた感じがあったが俺はホントに無料でくれるんだと思い、ありがたく使わせてもらうことにした。


「ここで1つ注意、自分リメイカーは何回でも自分を作り直すことができるんだけど、短い期間で理想を変えすぎたり今の自分からかけ離れた理想を設定しちゃうのはダメだからね?」

今までの態度とは違って真面目に俺に言ってきた、それほど重要なことなのだろうと俺も真剣に聞く。


「今の自分からかけ離れた理想ってのはね、例えば0点ばかりとる教科でいきなり100点とれるように設定するようなものだね。すぐに勉強できるようになっても変化に対応出来なくなってしまうんだ、その瞬間設定はリセットされちゃうから気をつけてね。」

この人の例えはなんで小学生が対象みたいなものばかりなのだろう、しかもイマイチ分からないぞと心の中でツッコミを入れる。


「…はい、分かりました、気をつけます。今日はありがとうござました!ではこれで失礼します。」


「あ、もう帰っちゃうの?まぁ来てくれてありがとね〜、くれぐれも自分リメイカーを使いすぎないようにね〜」

上野は手を振って笑顔で見送った。


俺はこれでどんな設定をしようかと考えながら、ほんの少しだけウキウキしながら帰っていたと思う。


帰宅しさっそく起動してみる。

青背景に白文字で説明が出てきた。

「なるほどな…性別と名前を登録したらすぐリメイク可能ってわけか、そしてリメイクが完了するのは30秒後…」

とくにリメイクの制限はなくいくらでも設定できるようだ。

設定するにはいくつかある空白の中に理想を打ち込むだけだ。


「よし、まずは仕事がうまくこなせるようにしてみようかな、まったく仕事できないわけじゃないから問題無いはず…」


仕事をこなせるようになる。と入力して【リメイク】ボタンを押す。

「リメイク完了!」と文字が表示された。


こんなにあっさり自分を変えてしまって大丈夫なものなんだろうか…

これでホントに自分を作り変えられるかはわからないが期待はしている、明日から仕事をうまくこなせるように願って寝ることにした。

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