第2話

「メロスは激怒した」「吾輩は猫である。名前はまだない。」

有名な一部分。どれも冒頭に出てくるもの。

思わずくっつけてみたくなった。

そうしてできたのが、こちら

『吾輩は猫である。メロスは激怒したが、名前はまだない。』

•••なんとも言えず、なんとも違和感なくくっついた気がした。このまま物語が絡み合って進んでいきそうな、そんな一部分になった。


そうして遊んでいるうちに時間は過ぎる。

『ああ、今日も何にもしてないなぁ』

なんてため息混じりの思いを口にして。


こうして何かしら作っているじゃないかってツッコミも入りそうだけど。


本人にとっては、何もしていないも同じらしい。

もう一度、PCとのにらめっこ再開。

数十分後には、同じセリフで同じため息。


かれこれ5時間はそんなことをしている、作家志望の少年。

この年頃なら、友達と外で遊び回ったりしていそうなものだが。


彼は、変わっていた。

自分の好きなものはとことん調べて学んで、研究し尽くす。

誰かから聞いた情報も必ず自分の手で調べて、しっかり確証を得ないと納得しない。

ましてや嘘っぱちの情報を教えたら最後、しばらくは口もきいてくれなくなる。

そんなこだわりを持つ、ちょっと変わった少年。


その少年、行き詰まってはため息を漏らし、色々調べては「これじゃない」とページを閉じて。


結局、その日に何も書くことはなく終わった。


「しょうがない。テスト勉強でもしよう。」


半ばイヤイヤで机に向かう。

教科書を出して、ノートを広げ、シャーペン取り出して、そこで止まった。


「ん??消しゴム•••」


そして今度は行方不明の消しゴム探し。


探し始めて数分。「あ!!」と一声あげて捜索終了。


「学校に置いて来たよ•••はぁ•••」


もう何度目になるか分からないため息をついて、少年は仕方なく学校へ取りに行く。


「あぁ、今日はツイてない。小説も進まないし、消しゴム忘れるし、」


そこで独り言が止まる。

教室に誰か居たからだ。


見知らぬ顔。

見知らぬ制服。

夕焼けに染まった真っ白な肌。

こちらには気づいていない。


「•••。」


声をかけようとして、やめた。

そのまましばらく少女を見つめていた。


振り返る。

美しく整った顔。

でも、正気の薄い顔。

驚きでもなく、嫌そうでもない表情。

むしろ笑っているようにも見えるが、少年からは逆光で表情はうまく読み取れない。


「ここからの夕日が綺麗で、誰もいない教室に入っちゃった。」


聞いてもいないが、聞こうとしたことを少女は語る。

まるで少年のココロを見透かすように。


「そ、そうなんだ•••。邪魔してごめん!消しゴムとったら帰るから!!」


思わず何も悪くないのに謝った少年を、少女は笑う。


「ふふふ。変なの。別に謝らなくてもいいのに。」


「そ、そうだよね。あはは•••」


少年は少し恥ずかしがりながらも、自分の机から消しゴムとって教室を出ようとする。


「あ、待って。あなたの名前は?」


「ぼ、僕!?僕は〇〇。」


「私は△△。もう会えなかもしれないけど、最後に会えてよかった。」


「え?•••どう言うこ•••」


少年はそれ以上聞くことができなかった。

振り返った先には、少し夜の近づいた空が見えるだけだった。


自分は誰と話していた?そもそも誰かいたっけ??


そんな風に頭の中はゴチャゴチャ。

少年はモヤモヤを抱えて辺りを見渡す。


机。

椅子。

黒板。

教卓。

窓。

扉。

ロッカー。


誰もいなかった。気配もない。

そろそろ日も完全に落ちる。


「帰らないとヤバい•••」


暗く夜に変わりゆく空を見た少年は、一気に思考回路から先程の少女を追いやって、家路につく。



家に着いた少年は、改めて先程のことを思い出す。

しかし、少女の顔までは思い出せなかった。声も聞いたことはなかった。


「あれは一体誰だったんだ?そもそも居たのか?妄想か??」


少年、もはや勉強もPCもそっちのけで考え始める。

数時間後。答えは出なかった。そして、自分の妄想だと思い込んで、頭の片隅に追いやった。


「•••。やめよう。勉強する気になれないし、PC弄ってようかな?」


なんとなく、もう一度PCへ向かう。

自分に書きかけの小説が映った画面を見て、全て削除。


そうして、突然思いついたものを書いてみた。


先程までのスランプ状態はどこへやら。

スラスラ書ける。自分でも驚く程に。


そしてその作品は、少年のデビュー作であり、初の賞をとる作品となるが、それはまた別のお話。


さて、少し脱線したが、少年はその日以来執筆にスランプが無くなったかのようにたくさん書いた。


もう、あの時の少女の事は忘れていた。

ところがある日の夕方。

遠い親戚の集まりがあるとかで、両親の帰宅が遅かったこの日。


ピンポーン•••。


「はーい!!今出ます!」


ガチャ。


「えぇっと、両親は出かけてて、僕1人なんですが、どちら様でしょうか?」


靴を履きながら、下を向いていた少年は、セリフを言い終わって顔を上げる。


「???」


そこには誰もおらず、慌てて外へ出てみたが、どこにも誰か居た気配もない。


「•••。気のせいだった??」


少年は部屋へ戻る。


外ではキラキラと星が輝きはじめていた。

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