第12話 メガネのモテ男に元メガネのこれからモテる男にモテ男君

「わざとしてる?」

「うん。まあね」


 やっぱり柏木君変わり過ぎだし。


「どういう子達か散々見てきたからね。まさか今日話しかけてくるとは思わなかったけど」

「あれはさすがにすごいね。変わり身が早いわ」

「佐久間もじゃないの?」

「ん?」

「メガネとったんでしょ?」

「うん。そう言えば! 隣の男子が近い!」

「何それ?」

「教科書ないから見せてもらってるんだけど」

「ああ、近くなったんだ」


 もう柏木君にはわかったみたい。


「そう。近いって、凄い近いのよ」


 柏木君笑ってる。


「佐久間……なんの為に、メガネをかけてたの?」

「え? 煩わしいから。前の学校でいろいろあって」

「ふーん」


 柏木君何考えてるの? 急に黙ってるし。


「何?」

「ううん。そうなんだって思っただけ」


 またあの可愛い笑顔で答える。そう言えば生徒会室の前で見た彼は、もうこの表情だったな。橘君がいるからって思ってたけど。


「ねえ、昨日生徒会室きた時私の前で演技してた?」

「ああ、してない。佐久間気にしてなかったろ? 俺がどうって」

「うん。むしろあの子達にムカついてたけど」


 本当にムカついた。外見で判断するのはある程度仕方ない。けれど、彼は笑われるようなことしてないのに。ああ、思い出してまたムカつく。しかも、手のひらを返すとはこの事だ。急に柏木君に近づいてって。あからさまだって気づいてないのかな?


「佐久間、怒りが表情に出過ぎ」

「そう?」


 いつも間にか佐久間になってるし。ていうか、これだから榊にからかわれるんだね。私。


「佐久間って……」

「よう! 隆。佐久間も。榊はまだだよ。多分。職員室行ったから」


 何か私への感想があったみたいだけど、柏木君にタックルする橘君にさえぎられた。本当に仲良しだな。

 橘君も佐久間になってるけど。


「瞬! お前陸上部の部長に俺の中学の最高タイム言っただろ? 約束と違うだろ!」

「いや、つい。」


 橘君を見る限りついではない。策士だな。ってか、そんなにいいタイム弾き出すのを隠してるってどこまで自分を演出してたの? 柏木君! 本当の策士はこっちの方かも。

 二人でじゃれあってる。生徒会室の前。仲良しだね。いや、なんかサッカーもバスケも剣道もバラすなって柏木君が橘君に言ってるけど、完全にかぶってるよ二人。だから、仲良しなのか?



「よう! お待たせ!」


 榊がなんかやたらに大きな袋を持ってきた。


「香澄手を出せ!」

「え?」


 とりあえず手を出すと榊が鍵を落とそうとする。榊は手元が見えてないんで私がキャッチ。

 生徒会室を今日は私が開ける。


 ガチャガチャ

 ガラガラ


「早く入れ!」


 榊いちいちうるさいよ。中に入ると榊は袋の中身をテーブルに広げる。

 ああ、そういう事ね。っていうかなんでこんなにあるの?


「先生が用意してくれた変装グッズなんだけど、結構あったから持ってきた。男女それぞれいろいろあるけど、競争だから平等に同じのがいいだろう。この中から選ぼう」


 榊……変装いやコスプレをして障害物競走をしている時点で、平等だの順位だの気にする生徒はいないと思うんだけど。

 でも、橘君に柏木君、榊を交えて真剣にコスプレ選んでる。ついてけないのは私だけのようだ。

 この風景全く生徒会室っぽくない。メイド服やチアガール、いろんなカツラを手に語り合う、メガネのモテ男に元メガネのモテる予定の男に完全なモテ男。

 なんだろうなこれって。そこに入れない私。なぜ学校にこんなにも男女それぞれのコスプレがあるのよ!

 変装ってそんなの学校にないから、ただの障害物競走か借り物競争あたりで落ち着くと予想してたのに。どうなってるのこの学校は。



「おい! 香澄!」


 なんで私が榊に香澄って呼ばれてるのを気にしないんだろうか、橘君と柏木君。


「はあい」


「一クラス男女一名ずつだと変装が一種類ずつしか使えない。こんなにあるからもったいないから、二クラス合同のチームにしてやろうと決まったぞ! 1チーム四名で」


 あ、相談ではなく決定の発表だね。


「女子はチアガールとメイドで男子は女子高生とミイラ男にした」


 え? ちょっと待って。


「ここにミイラ男になるコスプレないけど?」

「それは、トイレットペーパをぐるぐる巻にするから低予算でいけるだろ?」


 あの、ここにあるコスプレを使いたかったからの二クラスの合同チームを作るって言ったのに……コスプレを使ってないし。女子だけだし。チアガールにメイドって男子の意見が多いに出てるよね。


「なんだよ。香澄、不服か? なんなら選びなおすか?」

「いや、いいよ。うん。あ、障害物の方は?」


 どうせコスプレなんだし選び直しても大差ないだろう。むしろ反感をかうコスプレになったらやっかいだしね。話を別にふってみる。


「ああ、それがあんまりいいのがなくてな」


 コスプレがこんなにあるのに?


「じゃあ出来ないの?」


 今さっきの時間を返せ、時間泥棒!


「いや、大きな網があるらしい」


 あー、よくテレビで見るやつだね。っていいのがあるじゃない!


「それだけ?」


 と、橘君。確かにそれだけなら障害物競走は出来ない。


「体育倉庫の中身を聞いたんだけど、あとはハードルと跳び箱と平均台ぐらいだな」


 榊それに何の不満があるの? 榊のイメージする障害物競走はきっとすごいんだろうね。


「それでいいんじゃない!」


 柏木君が堪り兼ねて出てきたよ。十分だよ、榊。むしろ多いよ。


「でも、それを全てこの四人で運ぶの?」


 ハードルと網は簡単だけど、平均台と一番は跳び箱だよね。体育倉庫から運んでくるのを想像してもうしんどいよ。借り物競争にしない?


「ああ、先生に聞いたら体育祭の実行委員が使う物の移動はしてくれるってさ」


 榊も運ぶの嫌だったんだ。すでに先生に聞いて確認してるし。実行委員にとってははた迷惑な提案だね。


「じゃあ、私達は何をするの?」


 抽選は各クラスが勝手にするだろうし、当日運ぶ物はコスプレのみ。ああ、着替えるからそこを仕切るぐらいかな。後は何をするの?


「ああ、そうだな。着替える場所への誘導と、後はスタートの合図とゴールの順位確認に……」


 榊の障害物競走の想像が止まってる。


「それと網やハードル、跳び箱なんかが競技中に動いたら直す。あとはコスプレの片付けか」


 橘君が榊の想像を続けた。なんでこんなにノリノリなの? この人達は。


「佐久間がいるから女子の着替えもスムーズに行くね」


 柏木君、言い風に言ってくれてるけど、女子いなくても十分できる計画だよね。そこに私の役目に箔をつけなくていいし。



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