第13話 策略

「じゃあ、先生に更衣室の件とコスプレの貸し出しについてこれを返しがてら言ってくるな」




 そこから網は何かで押さえたらという話になり、砂袋は? と案が出たけど、トレーニング用の重りのついたなんかが、どこかの部にあるだろうってフワッてした話で落ち着く。話がフワッて落ち着くのはどうなんだろう? まあ、榊が先生に確認するからいいんだけど。


「じゃあ何の係りにする?」


 具体的な話に持ってかないと気づけばコスプレを着用し出す三人。暇潰しに遊ぶな!


「あーそうだな。そこは……」


 榊もうイメージが尽きたな。


「佐久間は女子の更衣室と競技中の補助でいいんじゃない?」


 柏木君が具体的な話をしてきた。めっちゃ真面目に取り組んでいる。手にはメイド服だけど。


「じゃあ、俺は男子更衣室とスタートの合図をいただき」


 橘君抜け目ない。けれどどれも同じような仕事なんだけどね。


「俺は準備と補助……いや、ゴールやるわ」


 榊も自ら選んできた。ゴールに変更は生徒会長だから? 一応の責任感からかな。


「後は……準備と補助だな」

「じゃあ、僕が」


 と柏木君。もう人手はないからね。

 準備と補助って花ないなー。こう聞くと。まあ、どれも同じなんだけど。


 ということで話も終わったし、決めたことを書記の柏木君が書いてる間に雑談タイム。いや、コスプレタイム。無理やり私にメイド服を押し付ける榊を振り切り話を変える。ここでメイド服に着替えられる訳ないじゃない!! 更衣室の話してその事書いてるよ柏木君が今! って、更衣室があっても着ないけど。全く榊はすぐに人で遊ぶんだから。

 次はチアガールのコスプレ持ってこっち見てるし。さっきの話し合い、また榊の出来レースだったのか? 男子のミイラ男は面倒になっただけか?


 そして、柏木君が書き終わってくれ、榊との戦いも終わった。コスプレを集めて袋に戻す。先生、生徒会室でこんなに遊んでるとは思ってないだろうな。


「香澄ついて来いよ。手が空かないから困ったんだ。さっき」


 榊はどこまでも命令というか勝手というか、まあこれも生徒会の仕事か。


「はい。はい。じゃあね。橘君と柏木君」

「ああ、またな」

「おお。お先に」



 生徒会室の鍵をかけて袋に山盛りのコスプレグッズを持った榊の後をついて行く。私が榊のカバンも持っている。コスプレすごい量だな。なのにミイラ男……女子用ばっかりだったのかな? いや、ただ面倒になったのか。


 コンコン


「失礼します」


 登校日以来だなここに来るの。職員室は緊張するな雰囲気が。

 そんな雰囲気の中、生徒会顧問の私のクラスの担任のところにコスプレの山は向かう。


「先生、これありがとうございました。それでですね。今日話し合いをして……」


 榊が真面目な生徒にはじめて見えた。先生に話する時にはさすがに真面目になるんだね。まあ、いつものままなら生徒会長に立候補しても許可されないだろうけどね。


 先生、体育祭にハプニングを起こさせそうな榊のいかにも真面目なような不真面目な話を満足そうに聞いてる。先生いいの? その顔は許可してるんだね。この山盛りのコスプレを用意したの先生だもんね。先生が誰よりもこの企画に乗ってるね。


「失礼しました」


 と鍵も返して職員室を後にする私と榊。先生の様子と榊の変貌を見てて、榊と先生の話全然聞いてなかったけど、先生がノリノリなのはわかった。体育祭のハプニングは間違いないね。特にミイラ男の網をくぐるのは危険すぎるでしょ。全部取れちゃうよトイレットペーパ。気づいたのが榊が先生に話してる途中だったんだから仕方ないよね。言えないしあそこで。


「ねえ、榊。ミイラ男のトイレットペーパさあ、網をくぐるってる時にトイレットペーパーほとんど取れちゃうよね?」


 言ったからね! 私は使命を果たしたんだからね!


「え!? ああ。わかってるよ。じゃなきゃ変装グッズを使わないでやる意味ないだろ? 本当に俺らの話を聞いてないな」


 想定済みだったの? ミイラ男になる男子が丸裸になるのを期待してのワザとミイラ男のコスプレチョイスだったの? 抽選が怖いな。女子は多少の気恥ずかしさぐらいで済むのに男子は女子高生か丸裸しか選択肢がないなんて。榊、恐るべし。橘君も柏木君も楽しそうに話に加わっていたよね。自分は選ばれないとわかってるからって。


「ひどいな。丸裸じゃない」


 一応ミイラ男になる男子を救済してみる。


「大丈夫。下にはズボンはかせるから。それに、こうしないと何のための変装だかわかんないだろ?」


 すでに何のためにコスプレで障害物競走をするのかわからない私にはわからない。


「想定してるんだったら大丈夫。気になったから聞いたの」


 ミイラ男についてはずっと気になってたが、こんな策略があったなんて。

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