第5話 暇つぶし

 それからはひたすら書き連ねる。……個人情報の扱い軽くない? あ、顧問だ。クラスの担任の生徒会顧問が生徒会長探しのためにこのリストを用意してたんだ。生徒会長の立候補残り一日だったし。

 書き連ねるって言ったけど、かなり少ないんだけど。結構みんなクラブ頑張ってるんだね。三クラスで十人だった。これって多いの少ないの?

 榊のメモを見ると……多い! なんでそんなに多いのよ! 分ける時に見たな中身?


「終わったか?」


 ええ、もうずっと前にね。そんなにいなかったから!


「うん」

「じゃあ、今日はこれで終わりって事で帰るか」


 はあー。明日は当然この見も知らぬ十人に声をかけて回らなきゃいけないんだよね。同じクラスもいるけど転校したての私には見も知らぬ他のクラスの人とほとんど変わらないし!


「じゃあ」


 私は力なく生徒会室を後にした。榊は生徒会室の鍵をかけて職員室に鍵を持って行くんだろう。



 スーパー……嫌だが昨日榊が行っていたところが近く、あとは遠かった。ここしかない、行くか。睡眠を削ったかいがあってようやくキッチンも使用可能となった。

 一人用って作りにくいな。材料が余るしな。榊のあのネギ……一人用になんで買うんだろう。男の子はそんなに食べるのか? もしかして誰かと暮らしてる? 狭いけれど二人なら住める広さだし……誰とだろう……。


「香澄は一人用って作ったことないんだろう?」

「うわあ!」


 びっくりさせるのが好きなのか、この榊陸は? 何を買うか迷っている私の後ろから声をかけて来た。


「あっちに一人用の少なくパックされてるのがあるぞ」


 榊はまた私の腕を取る。こいつには人の意思を聞く気は全くないな。




 二人で買い物してスーパーを出る。帰りももちろん同じ方向なんだし、いや同じマンションなんだから当然そのまま……これ誰かに見られてたら大きな誤解を招きそう。前の学校の噂話にふり回されてた私には嫌な感じなんだけど、榊は嬉しそうな表情。こいつだけはわからない。




 ポーン

 と、九階に到着。なんか当然のように並んで廊下を進む。榊の部屋が先にくる。私は通り過ぎようとすると突然榊は私の進路を塞ぐように腕をあげて自分の家の玄関に手をついて私の進路を阻む。


「もう、なに?」

「一人は暇だ!」

「はあ?」

「うちへ来い!」


 えちょちょ、ちょっと待って。さっと鍵をあけて、私を抱きしめ、そのまま家に私をいれる。強引にも程があるって!


 榊は私の腕をまた引っ張っていく。あ、靴、靴! 強引に家の中に入れられた割には几帳面な私。慌てて靴を脱ぐ。謎が謎のままの榊がどんな奴なのか興味があったのは確かだ。


 普通。普通だ! 部屋も予想の範疇を越えない男子のものだし。間取りが一緒だからか新鮮さがまったくない。謎の男は普通に暮らしてる。ネギも調理しまくりだね。多分。キッチンもキレイだけど使われてるキレイさだし。


 部屋の感じから一人暮らしは見て取れる。誰かと暮らしてる雰囲気は全くない。が、食卓テーブルがあり、椅子が二脚あるのは気になった。

 うちには必要ないから食卓テーブルすらないんだけど。


「ほら、まずは宿題するぞ」


 なんでそんなに張り切ってるの? クラス違うから宿題違うし。一緒にやる意味ないのに! 問答無用でスーパーで買った食材を冷蔵庫にしまいこんで、宿題タイムが始まる。さっきの食卓テーブルで。




「はあー。終わった」

「ちょっと冷蔵庫からお茶持ってきて」


 なんで人の家の冷蔵庫を開けてるの私? お茶を入れて持ってくる。榊にいいように使われてる。


「さあ、終わった。なにして遊ぶ?」


 小学生じゃないんだから遊ぶって! ガサゴソとどっかからダンボール箱を榊は持ってきた。


「香澄、これしたことあるか?」


 さっきの箱の中身はテレビゲームだった。そのうちの一つを取り出して私に見せる。


「ない」


 ゲームなんてそれこそ小学生以来だし。

 榊はゲームの準備をしだした。自分も使ってなかったんだろうテレビに配線するとこからしてる。


「よし! やるぞ!」

「だから、なんなのその張り切りは!」


 あ、もう声に出たし。その声を榊は気にしてないし。榊は私の様子など全く気にせず嬉しげに、私にコントローラーを持たせてゲームを開始する。

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