第6話 一人の家

 意外だな。ゲームで盛り上がってしまった。負けるのが悔しくてついムキになってしまった。


 そろそろいい時間だ。ご飯作らないと。私はキリのいいところで言う。


「じゃあ、帰るね。ご飯作って食べないと」

「ここで作れば?」

「え!?」

「一人前も二人前も一緒だろ? いや、むしろ作りやすい」


 いやいや、そういう問題?


「で、でも。ほら材料が」


 私はもちろん一人前分しか買ってない。


「じゃあ、今日は俺が作るから」


 ええ! 確信犯的な足取りでキッチンに行き料理をはじめる榊。

 はじめから二人分作る気だったな!


 慣れた手つきで料理をはじめて作って行く。いい匂いが部屋中を漂ってる。こいつはなんなんだ?


「ほら香澄食卓に運ぶの手伝って」


 なんか違うよ。なんで生徒会長と一緒にご飯食べてるの私? だいたいなぜ二人分の食器があるの? 私の家にはそこまでない!

 この前まで夜の街でケンカ買ってたのか売ってたのかそんな奴の作ったご飯を美味しく食べてる私! いいの私?


 食事が終わり片付けてる間に考える。今日は俺がと言っていた。ということは明日は私の番なのか? なんで順番になってるの? 榊の意図がわからない。……榊に意図なんてはじめからない?


 片付けが終わったらまた携帯がカバンの中で鳴ってる。しつこいな誰だろう? カバンから取り出す。

 桐山……

 あいつまだなんか用があるの?

 電話に出てみる。また一人でゲームしてる榊に背を向ける。


「なに?」

「あ……、あのごめん。俺のせいで質問攻めにあってるみたいだって聞いて」


 私が出るとは思ってなかったみたいで、桐山は動揺している。あの伝言は桐山に伝わってたみたい。


「うん。でも、今日は忙しくて電話もメールも全部無視してるから」


 嘘じゃない。榊の相手で忙しかった。


「あのさ。この前の電話の相手ってマジで香澄の新しい彼氏なの?」


 まだこだわってるのはそこなの?


「それは……」


 何時の間にか真後ろに榊がいた。おい! 体くっつけ過ぎだよ、榊。


「今日も俺とずっといたし、今も一緒にいるけど。もう電話とかしないでくれない。俺の香澄なんだから」


 電話を聞いてたから体をくっつけ過ぎだったのか。携帯を私から取り上げると私を見ながら喋ってる。ああ、もう勝手にして。


「じゃあ、もうかけてこないで」


 また勝手に切ってるし。まあ、いいんだけど。それに嘘はなかったし。榊とずっと一緒にいたのは事実だしね。


「ほら、携帯返して」


 榊に手を差し出す。


「えー! どうしようかな」


 榊はまた私で遊ぶ気だ。自分の部屋のベットまで私の携帯を持って行く。


「もう、そうやって人で遊ばない」


 そうして携帯を取り合い、いや、私が携帯を取ろうとして……なんでこんなことになるの? 榊!!

 私が榊のベットの上に上向きで横になり榊は私の上にいる。そして榊は私にまたキスをする。

 このキス魔! 絶対キス魔だ! でも、ベットの上のキスってまずくない?

 榊は何時の間にか携帯を置いているみたいで、今は私の両手首を抑えている。これって完全にマズイよね?

 榊の唇は私の唇から移動して首筋へと動いてる。や、これはさすがにダメだよ! なのに体に力が入らない。榊は別に私の腕を抑えているけど軽い力なのはわかっている。足も自由に動く。なのに抵抗しない私。なにしてるの!?

 と、唇を私から離してなぜか榊が揺れてる。そして聞こえる……笑い声。


「榊!?」


 やっと呪縛が溶けたように榊を押しのける。榊はやっぱり笑ってる。


「もう! なんなのよ」

「香澄抵抗しないんだから。よくそんなんで前の彼氏から逃げられたな」

「そういう場面避けてたから! ん? なんで知ってるの?」

「キスもしてないのに、その先してたらおかしいだろ?」

「もう! からかうのやめてよ。もういいでしょ、帰るね」

「うん。楽しかったよ。香澄」


 玄関までカバンを持って行って思い出して冷蔵庫まで戻る。さっきスーパーで買ったものをしまってたんだ。


「じゃあ」

「じゃあ、明日は一人必ず捕まえてよ」


 ガシャ


 ああ、思い出した。明日の事。十人の名前のリスト。転校生の私にハードル高すぎなのよ!

 自分の家の玄関のドアを開けて中に入り、榊がした事の意味を考える。確かにさみしいな一人の家。

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