授業

 授業終わりのチャイムが鳴る。先生が教室から出ると同時に、椅子を引く音。次第に周りが騒がしくなり、立ち上がる生徒も数を増す。


「どうしたの、翔子」


 早紀がにやけながら聞いてくる。遅刻した理由のことだろう。

 そう面白い話でもないと思うけどな?


「寝坊」

「何だ。つまんな」

「どんな理由期待してたの」

「えー何だろ…やっぱ何でもつまんないわ」

「でしょ」

「なんか面白いことないの?」

「ないよ」


 羽根のことを話したら、早紀は面白いというだろうか。

 ふとそんな考えが頭をよぎる。


「あっそういえばさー、昨日新イベ予告出たけど見た?」


 早紀が嬉々として話し出す。

 ゲームの話だ。

 よくあるアイドル育成の音ゲーで、私も早紀も一年ほど前からプレイしている。

 早紀とするのも、殆どこのゲームの話。


「えっまじ?見てない誰イベ?」

「レイレイ」

「まじで?早紀推しイベじゃん」

「そう。走っちゃうよー」


 早紀は筆箱からシャーペンを取り出す。茶髪の長髪、センター分けの美少女の柄。早紀の推しキャラのレイレイだ。早紀は愛しそうにレイレイのプリントされた部分を撫でる。


「ねえ翔子、今度レイレイのコスプレしてみてよ」

「お金できたらいいよ」


 コスプレには地味にお金がかかる。服は自分で作れないこともないけど、ウィッグとかはさすがに無理。

 でも、やってくれって言われるのは嬉しい。

 楽しみにしてくれている人がいるっていうのは、とても幸せなことだ。多分。


「次何?国語?」


 話を変える。早紀もレイレイのシャーペンを筆箱にしまった。


「残念。保健」

「えっウッソ道具持ってきてない」


 私はリュックを探る。やっぱり入ってない。

 ノートだけなら何とかなるけど、教科書はごまかせない。どうしよ。


「何で調べてこなかったのさ」


 いつもはちゃんと教科連絡くらいメモしている。というか昨日もちゃんとメモした。のに忘れた。


「入れんの忘れてたっぽい…ちょっと隣のクラスいって借りてくる」

「いってらー」


 私は席を立つ。早紀の声を背に、机と机の合間を縫って、隣の4組に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る