羽根と翼
「ああ。といっても俺も、羽根のことは何も知らないんだよな。飛べて、重くて、温かくて、引っ込めれて…たぶん君が知ってるのと大差ないと思うよ」
「そうですか」
そりゃまあ、そうだよね。
特に新しい情報を期待していたわけでもない。私は変わらぬ表情で相槌を打った。
「あ、連絡先交換しません?」
忘れてた、大事なこと。
私はウィンドブレーカーのポケットを探る。一瞬落としたかと思って焦ったが、ちゃんと携帯はあった。
「ああ!そうだね」
大和さんもスマホを取り出した。何を交換しようか考えたが、ラインにしておいた。さすがに初対面で電話番号はハードルが高い。かといってメールは、私はほとんど使わない。
一応時刻を確認しておく。午前4時10分。ということは、眠っていたのは2時間弱か。
大和さんをラインの友達に追加して――あ。
ママとパパに連絡しなきゃ。
さすがに今は寝てるかな…?
「あ、4時か…そろそろ家に戻らないと、親御さん起きちゃうかもね」
「ここってどの辺ですか?」
大和さんも時間を見たらしい。
ここから家までの距離によっては、確かにもう帰らなければいけない。
何区の何丁目だよ、と大和さん。
うーん、微妙な距離。
遠くもないけど近くもない。
まあ念には念をだ。もう帰ったがいいと思う。
ママとパパに怒られたくないし。
あんな両親でも、怒るときは怒るのだ。
「家どの辺?送っていくよ」
「ありがとうございます。えっと…」
住所と近くにあるショッピングセンターを挙げる。どうやら伝わったみたいだ。
この時間帯に空を飛ぶわけにもいかないし、かといって電車やバスは私お金持ってないし。送ってくれるというのなら、お言葉に甘えておく。
「うんうん、オッケー。チャーリーに車出してって言ってくる。出る準備して待ってて」
そういうや否や、大和さんは立ち上がって階段をのぼって行った。
チャーリー?
誰?
車があるってことは、ここに住んでる人だろう。
外国人だろうか。
もしやさっきのツリ目の男の人か?いや、それはないか。
「準備できたかー」
さっきの人だった。
えっこの人がチャーリー…?
渾名かな。
なんでそんなあだ名がついたんだ…?がっつり日本人でしょこの人…?
「何でチャーリーなんですか?」
聞いてみた。
「ああ…インド人の教会員につけられた渾名が無駄に浸透したんだよ。本名は
チャーリーさんは歩きながら、だるそうにそういった。
ドアを二つほど開けると玄関に着く。
靴箱がでかい。
さっきの十字架といいこの靴箱といい、絶対民家じゃないなここ。
とりあえずさっき引っかかったワードを聞いてみることにした。
「教会員?」
「大和が言ってなかったか?ここ教会なんだよ。で、俺はここの牧師な」
んで、ここに住んでる、と付け足す。
教会の牧師。
一応知識として知ってはいるけれど、いままで触れたことのない職業だ。
牧師って教会でお話をする人だよね。教会に住むんだ。
教会っていうと、もっと結婚式場みたいなのを想像していた。こういう教会もあるのか。ここは、広めの民家ってかんじだ――十字架とかを除けばだけど。
私が驚いた顔をすると、もう少し詳しく説明してくれた。教会に住んではいるけれど、礼拝堂とかそういうところを使って生活しているわけではないらしい。牧師館と呼ばれる、教会の二階に住んでいるそうだ。教会と違う建物の牧師館(例えば一軒家とか、マンションの一室とか)もあるようだが、ここの教会は一体型らしい。
そして、結構こういう外観の教会も多いらしい。いかにも教会っていう教会はなかなかないんだそうだ。
あれ、もしかしてこの人面倒見いいのか。
そうだよね、普通気絶した知らない女の子(羽根付き)にここまで説明しないもんね?
車が見えた。黒の軽自動車。チャーリーさんが私をエスコートするようにドアを開けてくれる。
私は一礼して、後部座席に乗り込んだ。
シートベルトを締めたのを確認すると、車が走り出した。
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