翼の人

「おおっ天使ちゃん目覚めた!?」


そんな声とともに、バタバタという足音がドアの向こうから降ってきた。

これは多分、翼の人の声だ。

天使ちゃんってなんだ。

私のことか?

なんてハイセンスな渾名だ。


「……!」


翼の人がドアを開ける。私を見ると、安心したように笑った。

…そんなに心配してくれてたのかな?


「大丈夫?頭とか痛かったり、変だったりしない?」


こちらに近づきながら翼の人はそう言った。私は首を横に振る。

寝起きのだるい感じはあるが、それだけだ。


「そっか。…さっきは驚かせちゃったみたいでごめんね。俺は斉藤さいとう大和やまと。君は?」


翼の人改め大和さんは私の目の前の長椅子に腰かける。

改めて見ると、なかなかのイケメンだ。

F○ee!のまこちゃんみたい。

斉藤大和。

頭の中で、何度か反芻した。


つがい翔子しょうこ…です」


やや上目遣いになりながら私は言った。

人と話すのは、苦手じゃないけど得意でもない。


「翔子ちゃんか。よろしく」


そう大和さんは笑った。何がよろしくなのかは知らないけど。

はい、と私は頷く。


羽根や翼のこととか、色々話したい。

たとえ何も知らないとしても、それでもいいから。


もう、ひとりじゃないんだ。

みんなと同じになれたわけじゃないけど。

それでも、同じ人がいる。

もう、ひとりじゃない。


さっきはあんなに怖がっていたのに、なんて変わりようだろう。自分でも呆れて笑ってしまう。

あの両親に育てられたおかげか、私はものすごく単純で、ポジティブみたいだ。

そんな自分は嫌いじゃないけど。


私は何を悩んでいたのだろう。

ひとりだっていいのに。

みんなと違うなんて、みんなそうだ。

ことの大小はあれど、みんなどこか周りとは違う。

私はそれが、見えやすい形だっただけだ。


「羽根のこと、知ってることがあったら教えてもらえますか?」


私はそう大和さんに尋ねた。

さっきとは違う、笑顔で。

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