教会

『ねえ、どうして私はみんなと違うの?』


 幼い頃から何度もそう尋ねた。

 だけど、誰も答えてくれなかった。

 ママでさえ、パパでさえ。


『……ごめんね』


 そういって、困ったように笑うだけだった。

 いつも明るいパパとママが、そんな顔をするのは見たくなかった。

 明るいままでいてほしかった。

 だから、私は問うのをやめた。

 問うのをやめて、見ないふりを続けた。

 自分は、少し違うだけ。

 何もおかしくなんてない、って。



 ‣‣



「―――っ」


 乾いた喉、少し乱れた髪。やや冷えた体は、だがどこか汗ばんでいる。

 どうやら私は、眠っていたらしい。

 ――何で?

 さっきのは、翼の生えた男の人は、夢だったんだろうか?


 眠ろうとする意識をやや強引に揺り起こす。

 ぼやけた目に映るのは、木でできた天井、階段、いくつかの扉、長椅子、十字架――十字架?

 ここはどこだ…?

 自宅じゃないのは明らかだけど…。


 ああ、そうだ。

 私はあのとき、多分気絶したんだ。

 夢じゃないな。

 で、今知らないところにいるわけか。

 ……怖っ。


 やや迫りつつある危機感によって意識ははっきりしてきた。私は寝ていた体を起こす。寝ていたのはソファの上だった。

 羽根はいつの間にか引っ込んでいた。どうやら気絶すると引っ込むみたいだ。ということは、あの男の人がここまで運んでくれたんらだろうか?


 不意に、この部屋の入り口である、古い、だがおしゃれな木の扉が開いた。


「お、起きたのか」


 ……え、誰?

 例の翼の人じゃない。

 明かりが差し込む。その眩しさに私が顔をしかめると、ドアを開けた翼の人じゃない男の人は、「おお、悪い」といってすぐにドアを閉めた。リモコンでこちらの部屋の明かりをつける。さっきより弱い照明だったし、二度目はさすがに目が慣れて、顔をしかめるほどではなかった。

 男の人は、私の寝ているソファの前の長椅子に腰を下ろした。少し、煙草の匂いが香る。

 翼の人とは対照的な、切れ長でつり気味の目。整った顔立ちではあるが、いかんせん目つきが悪いのでちょっと怖い。年齢はわからない。翼の人より2,3歳年上くらいかな?

 ああ、あと声は細谷佳正さんみたい。あっそう思うと意外と怖くないかも…?

 自分が単純すぎてちょっと色々バカみたいだ。それとも既に頭の中がキャパオーバーしてるのか。


「ちょっと待ってろ。あいつ呼んでくっから。…ああ、あとそこの茶とか飲んでていいぞ」


 男の人は私の頭の向こうを指さす。丸い小さなテーブルに、ポットとコップが置かれていた。

 煙草の匂いを残して男の人は部屋から出ていく。


 …あいつ。

 翼の人のことか?

 とりあえずお言葉に甘えてお茶をもらう。冷えた体がじんわり温まっていくようで心地よかった。今思うとこの状況でよく飲めたものだけど。


「はあ……」


 お茶を飲んだことで体も思考も一息ついたみたいだ。


 でもまあ、なんか…疲れた。よくわからない。

 私は小さくため息を吐くと、考えるのを放棄し、男の人の言う『あいつ』がやってくるのを待った。

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