二章
翼
まずは、駆け足の展開となってしまったことを謝罪しよう。
でも仕方のないことだ。私にとって彼らの存在はとても大きなものだった―それまでの人生とは比べ物にならないほどに。
人生の折り返し地点はいつかと問われれば、私は間違いなくあの夜を選ぶだろう。
彼の第一印象は何だっただろうか。
薄い茶色の髪、細身だが筋肉のありそうな体つき、やや垂れ気味の目。どことなく柔和な雰囲気を漂わせる彼を、私は茫然と見ていた。
いいや、見ていたのは、彼についている羽根のほうかもしれない。
「どうして、羽根があるの」
どうして。
理由などないと分かっていたはずなのに、他に聞くべきこともあったのに、私は彼にそう問うた。
かなり気が動転していたのだと思う。
彼の羽根は私のよりずっと大きく、『翼』と形容すべきものではあったのだが、しかし彼も私と同じであろう。
彼も私も羽根があり。
人ならざるものなのだ。
自分は普通じゃない。
ママともパパとも、もちろん友達とも違う。
私と同じ存在を目の当たりにすることによって、その事実を突き付けられたようで。
そのときの私には、目の前の彼が、夜空が、この羽根が、下に見える海が街が。
すべて恐ろしいものに見えた。
「わからない。君は、何でか知ってる?」
呼吸を整えながら彼は言う。案の定知らないらしい。
でもこの時の私は、やっぱりすごく動揺してたから。
その答えを聞いて、この羽根が得体のしれないものに見えた。
知らないということを、とても怖く感じた。
どうして私にはこんな羽根があるの?
どうしてみんなと同じじゃないの?
何度も何度も考えたそれは、答えなどないまま私の頭の中を回る。
嫌だ。
どうして、私は。
普通に生まれてこれなかったの?
違う。ダメ。考えちゃダメ。
息ができない。
苦しい。
たす、けて――。
首を押えて顔を伏せる。
さすがに私の異変に気付いたのか、彼は私の顔を覗き込んできた。そして私の顔色でも悪かったのか、何やら慌てた様子で口を動かしている。多分「大丈夫!?」とかだろう。
「……やだ…怖い」
言葉になっていたかはわからない。
そこで私は、意識を失った。
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