出会い

 夜の風が気持ちいい。

 やっぱり、私は飛ぶのが好きだ。

 嫌なことも怖いことも、全部忘れてどこまでも行ける気がするから。


 私は飛べるところまで飛び上がる。真下には海。月明かりが反射して、水面がきらきらと光っている。

 背後にした地上にはちらほら明かりがついていた。それが街灯によるものなのか、それともまだ起きている人によるものなのかはわからない。

 夜の海はこんなにきれいなのだと、ここに住むどれほどの人が知っているのだろう。こんな景色を独り占めできるのは幸せだけど、少し申し訳ないような寂しいような気持ちにもなる。


 そんなことを思いながら、私は羽ばたいていた羽を休めて、地上へ急降下した。――もちろん進路に思い悩んで自殺しようとしたわけじゃない。遊びの一環だ。例えるなら、ジェットコースターなんかと同じ。一歩間違えれば死ぬが、どうしてか怖いとは思わない。寧ろそのスリルを楽しんですらいる。

 急降下の最中は目を瞑って、風を感じる。どこまでも落ちていけるこのかんじも、飛ぶことの次に好き。

 2,3秒経つと、また羽根を羽ばたかせた。落ちるのは最初は怖かったが、なぜか何度かやっていくうちに楽しくなった。今では夜の飛行の定番だ。

 ああ、こういうことをよくしていたから、飛び降りて死へと向かっている今でも、こんなに落ち着いていられるのかもしれないね。


 そして私は大きく風を起こし、海とは反対方向に向かった。――否、向かおうとした。


 もっと大きな風が、私の後ろから吹いてきた。

 あまりにも、大きな風。

 波の動きに異変はない。地上の木々も揺れていない。

 ――自然の風じゃ、ない?


「待っ、て……!」


 背後から、息切れした男性の声。


「……!?」


 驚きで声が出ない。

 待ってほしいのは私のほうだ。

 どうしてこんなところに、人がいる?

 こんな――夜空に。


 私はおそるおそる振り向いた。心臓の音が次第に大きくなっていく。


 そこには、私と同じ、羽根をはやした若い男の人がいた。

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