夜間飛行

 彼らと出会ったのは、今年。

 私が中学三年生になり、少し将来への不安も見えてきたころだった。

 高校へ行く気はなかった。

 まず羽根がある時点で、まともな人生を送ることは諦めていた。パパとママのおかげでストレスも不自由もなく暮らしてこれたけど、それでもいつ平和な日常が終わるかと身構えてしまうような日々だった。


 そんな現実から逃げたかったんだと思う。

 私は夜中、人が眠ったころに、よく空を飛んでいた。


 私の羽根は飾りなんかじゃない。もちろん空を飛べる。羽根を出すと服が破けてしまうという問題点にさえ目を瞑れば、すごく快適。


 深夜2時頃。私は近所の海沿いの路地に隠れる。さすがに家からいきなり飛ぶと、人に見られてしまうかもしれない。その点この辺りは人通りもないし民家もないので、飛ぶのにとても好都合だ。

 ママが作ってくれた特製のTシャツとウィンドブレーカーのチャックを下げる。

 普通の服を着ると、さっき言ったように羽根を出すときに破れてしまう。でもこれは羽根の出てくる位置にチャックがついていて、チャックを開けたまま羽根を出し、羽根がすべて出たらチャックを羽根のギリギリまで閉める。破らないで着れる。これのおかげで、冷えこむ夜でも寒さを感じず飛ぶことができるのだ。

 私は深呼吸をして、羽根を出した。

 見慣れた、真っ白な私の羽根。


 羽根を出した拍子に、何枚か落ちてしまった羽を拾っておく。少し温かい。一応、羽根にも体温はある。拾わなくても鳥の物だと思われるだろうけど、証拠は残さないに越したことはない。


 ちなみにこの羽、食べられる。

 小学生の時、興味本位で試してみたら、意外とおいしかった。フルーツの飴みたいなかんじだった。本気を出せば自給自足もできなくはないと思う。したくはないけど。


 一枚(もちろん汚れは払った)を口に含み、もう一枚の羽をポケットにしまうと、私は路地を出て、ゴミ置き場となっている浜辺へと駆けた。

 浜辺へ着くと、大型ごみの陰に隠れ、人がいないか確認する。いないとわかると、背を預けていた、洗濯機だったのであろうゴミに上る。

 そうして洗濯機を強く蹴ると、私は空に舞い上がった。

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