第4話
年が明けた。
あの日以来、逢う回数はさほど増えることはなかったが、親密さは出てきた感触はあった。僕自身も、少しずつ自信が持てるようになった。
今年は就職活動もしなくてはならない。彼女との結婚を見据えたら頑張らbなくてはと気合も入る。大手は期待できないが、何か夢のある仕事に就きたいものだ。
本や図鑑を読むことが子供からの趣味だった人間を受け入れてくれる企業があるだろうか。 現実は、笑ってしまうほどに厳しそうだ。
1月の半ば、人が訪ねてきた。
扉を開けると、初老と若手の男性2人組だ。
手帳を差し出す。
刑事!
初老の刑事が質問を投げかけ、若手がメモを取っている。
「12月24日の夜は、どこでどうしていたか?」
「それを証明する人はいるのか?」
つまりは、そういうことだった。
24日クリスマスの夜は、彼女と食事をしていた。そのあと、シティホテルで宿泊した。それは、まぎれもないことだ。レストランやホテルのスタッフ、なんなら防犯カメラをチェックしてもらってもいい。
二人の刑事は、気難しい顔をした。
いったい僕は何の罪を負わされようとしているのか、刑事に尋ねた。
二人が顔を見合わせた後、若手が話し始めたことは、とても衝撃的なことばかりだった。
僕が付き合っている彼女は実は既婚者であり、彼女はその旦那から相当のDVを受けていたというのだ。旦那は毎週木曜日、仕事を終えると実家に帰り、無心をして土曜日の昼に帰ってくる、そんな生活をしていたらしい。
二人は、僕の動転ぶりに、それが演技ではなく、心底、彼女の結婚のことも、旦那が殺されたことの知らないことを十分理解したようだった。
(金曜日・・・)
そんなワードが頭をかすめた。
25日の朝、犬を散歩させていた男性が、小さな公園の垣根の根元に横たえられた死体を発見した。レストランからは車で30分近くかかる場所だ。
死因は、絞殺。死亡推定時刻は24日午後6時から午前0時と幅広かったが、その間ならむしろ僕が彼女のアリバイを実証できる…あ、それで『動向』を確認していたのか。
そう、あの日あの夜、彼女はずっとそばにいた。レストランで彼女が席を外したのは、お手洗いに向かった訳10分間だけだ。
二人は会釈をすると帰っていった。
残された僕は動揺していた。
彼女に殺人の容疑がかかっていたことにではない。既婚者だったということにだ。
そしてふと、あることが脳裏に浮かぶ。
《奴》だ。
《奴》は知っていたんだ。
おそらく大学受験からN駅前で募金を呼びかける彼女に偶然出会ったことまではきっと真実に違いない。さて、そこからだ。
彼女は、《奴》に相談をした。もう元に戻れないことはお互い理解もしていただろう。そこで浮かんだのは、「僕」だ。
もしかしたら、一時の気を紛らわせてくれる友人の一人、のつもりだったかもしれない。まさか、初めからアリバイ作りに利用しようとしていたのだろうか。
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