第3話


                (3)


メールのやりとりから始まった二人。

 確かに、彼女からの返信は少なくしかも短めだった。

 それでも、何か特別なことを書いているわけではなかったが、やりとりは楽しいものだった。

 月末の金曜日、初めてデートをした。海を見るだけのシンプルなものだった。 

 次のデートで初めてのキス。女の子の唇って柔らかいな・・・などと思ってしまった。

 デートはたいてい、金曜日だった。

 募金の時に感じた憂いが、彼女から消えているようにも感じた。

 アルバムで見せていたキラキラが目の前にある、それは言いしれない幸せだった。

 《奴》は、恋愛に慣れない僕を、複雑な面持ちもなく応援してくれた。

 

12月の半ば、《奴》が中型バイクで転倒、右腕を骨折、入院した。赤信号になって急に渡ってきた歩行者を左折していた《奴》が避けようとしての事故だった。

 命には別状はなかったが、しばらく日常生活は不便だったろう。車は運転できたようだが、大好きな自動二輪はお預けになった。

 身近にいろいろアクシデントはあったものの、僕と彼女は日ごとに親密になった。

正直、彼女が僕のどこが気に入ってくれたのか不安でたまらなかったが、彼女の笑顔はそんな不安を洗い流してくれた。

 クリスマスイブは、金曜日だった。

 彼女とこじんまりとはしていたが、おしゃれなレストランで食事をした。彼女が予約してくれたレストランだった。

 高層ホテルの最上階レストランは、学生の二人にはまだ無理な話だったが、

彼女と食事をしつつ、いつか二人で悠々と食事をする日が来るのを夢見ていた。

 レストランに入った彼女は、どこかそわそわしているように思えた。いやきっと僕の緊張も彼女に伝わっていたかもしれない。

 食事も終盤になると、僕の緊張は解けていた。彼女もふっきれたように笑顔を見せてくれた。

 それから・・・

 二人はレストランにほど近いシティーホテルに泊まり、結ばれた。

 二十一年で、一番幸せな瞬間だった。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る