第16話 傍観者からの脱出
誰かが、自分を呼んでいるような気がした。肩を揺さぶられている。ゆっくりと目を開ける。昌利だった。
「気づきましたか。助けに来ました。和樹さんも一緒です」
「黙って見ているんじゃなかったのか」
「少し気が変わりまして」
「そうか」
「傍観者でいるのに、少し退屈を感じるようになってしまったようです」
「危険な兆候だな」
「話は後です。抜け出しましょう。あまり、時間がありません。結構、派手にやりましたから」
「ひもを解いてくれ」
「もう、解いてあります」
手足を見てみる。確かに、解いてある。感覚が麻痺しているのか。
「立てますか。行きましょう」
昌利の肩を借りて、立ち上がる。ふらふらとし、力が入らない。
「和樹さんが、下の階へ奴らを引き連れています。なので、俺たちは、屋上へ行きます」
「わかった。しばらくすれば、足の感覚も戻ると思う」
昌利の肩を借りたまま、部屋を歩く。ドアを開け、そのまま非常階段口へ向かう。
階段を昇る。部屋は、最上階だったようだ。すぐに屋上へ出た。
昌利の肩を借りながら、左足を引きずりながら、屋上の端まで歩く
「向こうのビルに飛び移りましょう。足の怪我は大丈夫ですか」
たいした距離ではない。それは。わかった。左足の感覚は徐々に戻ってきている。それでも、飛べるだろうか? 飛べない理由を探している自分に気づく。ナイの言葉を思い出す。
飛べたはずだ。躊躇したから落ちたんだ。飛べると自分を信じて飛んでいれば、飛べる距離だった。飛ぶのを怖がっていたら、どこにもいけないよ。
「先に飛んでくれ」
「でも」
「いいから」
意を決したように昌利が走り出す。飛ぶ。向こうのビルに着地する
「友也さん」
昌利の声が風にまじって聞こえる
目を開く。かすむ。唇をかむ。ひざを見る
助走した。駆け出す。走る。蹴る。飛ぶ。一瞬の浮遊感。風の抵抗。抗う。靴底への衝撃。着地。足に痛みが走る。崩れ落ちそうになるのを昌利が抱きかかえる。
「大丈夫ですか?」
「飛び方を」
「どうしました?」
「飛び方を思い出したよ」
「よかったです」
「昌利」
「はい」
「助かった」
「礼は、和樹さんに」
「水が欲しい」
「店に戻るまで、がまんしてください」
「もう、嫌というほど、がまんしたさ」
耳が遠くなった。昌利の声がよく聞こえない。その後、どんな風にして、下へ降りたのか、よく覚えていなかった。気がつけば、車の後部座席のシートに横になっていた。車の揺れが、激しくて胃がむかむかする。水がまだだと思った。水を飲みたい、ただそれだけだった。
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