ダメ作家と妖怪アシスタントの何気ない日常驒

雨宿 宵一

第1章 世界観、何ら思い浮かばねぇ

第1文 書き始める前に先ずは挨拶から

 ここは日本…のようで日本でない世界、いわゆる平行世界と呼ばれる場所のこれまたこちらでいう所の京都府に当たる場所。

 今でも古い面影を残しつつ現代の建築技術を取り入れたこの町並に今でも木造建築の屋敷があった。

 作り自体は和風建築であるが、よくよく見ると神社などの建築に使われているであろう建築方法も随所に取り入れられており、この屋敷の持ち主は神社関係の人、或いはかなりの金持ちでこういうのが好きなマニアなのかもしれない。

 その屋敷の一室、広さにして8畳程になるだろうか。ともかくその部屋は、外見とは違い、畳の上にはカーペットが敷かれており、壁2面には本棚が埋め尽くされている。その本棚には、和洋様々な本がびっしりと並べられている。

 また、布団ではなくロフトのベットがあり、机までもが学生時代から使っているのであろう勉強机と、何とも似つかわしくない内装となっていた。


 その部屋の主である天乃あまの 陽樹はるきはノートパソコンの電源を入れたままにしたまま、ベットで寝転がり天井を見ていた。

 別に他人から見ればどうってことは無いのかもしれないが、何故彼がこんな事になっているのかというと、


「あー…世界観、何ら思い浮かばねぇ。

 どうすっかなぁ、はぁ、スランプだ」


 という事である。

 というのも、学生時代にたまたま演劇部の舞台台本を書く事になり、たまたまその演劇が高評価だった為、友人から編集部の方に送ってみないかと言われたから自分の事を面白可笑しく書き連ねたものを送ったら、たまたま作家として活動する事になったという、兎に角たまたまの連続でここまで来てしまったという何とも希有な経歴を持つ作家な訳だが、それでも学生時代を終え今も尚作家を続けている神経の太い人物でもあったりする。

 そんな陽樹にも編集部の方からアシスタントが派遣されている。


「陽!戻ったのじゃー!」


 パタパタと廊下を走る音と共に古風な喋り方をする若い女性の…というよりは働ける年齢の声よりもかなり高い、下手をすれば10代前半なんじゃないかとも思われる女性の声がだんだんと近づいてくる。


「…全く、相変わらず煩いなぁ」


「主どのぉ!主どのは何処じゃ-!」


「うるせーよ!

 俺は自室にいるからさっさと来なよー!」


「分かったのじゃー!」


 声の大きさそのままの未だにパタパタと走り回っていた足音が徐々に近づいてきた。


「ふぅ…全く、相変わらず騒々しい奴だな」


 と、ボヤきつつも椅子に座ると同時に襖が勢い良く開かれた。


「主どのぉ!今戻ったのじゃ!」


 開かれた襖の奥にいたのは一言でいうなら小さな女の子、つまりは幼女だった。

 童顔でいて、その顔に合った体格に言動、更には纏っている雰囲気までもが子供のソレと同じなのだから尚更幼女といっても差し支えがなかった。

 ただ、言葉遣いに似合わず髪は銀髪で目は翡翠色である。

 まだ日本に来て間もないのであればこんな言葉遣いになっても仕方が無いのかもしれない。

 けれども、流暢に日本語を喋っているあたり、そうでは無いようだった。


「んー、お帰り、すず

 頼んでたものは、ちゃんと買ってこれたかい?」


「む、わっちをまた子供扱いしおってからに…。

 ホレ、この通りこんびに?とやらに一人で言って買ってきたぞ!」


「どれどれ…お、ちゃんと買ってこれてる」


 袋の中には、エナジードリンクと500ミリリットルペットボトルが1本ずつ、ケーキが2つ入っていた。


「どうじゃ、恐れ入ったか」


 何処か自慢げな銀髪幼女こと鈴は、無い胸を反らし何処か自慢げだった。


「うん、エライエライ」


 陽樹が頭を撫でてやると鈴はくすぐったそうにしていたが、程なくして眼を細めて気持ち良さそうだった。


「ふにゅ~…どうにも陽に頭を撫でられると気が緩んでしまうのぉ」


 と、言い終わると同時に髪と髪の間から一対の狐のソレと同じ耳に、服の間から9本の尻尾が生えてきた。

 この時点でもう察しているとは思うが、鈴は人間では無い。

 鈴は妖狐と呼ばれる妖怪の一種(あの見てくれで文庫の編集部に社員としている時点で、既に妖怪と思われていてもおかしくはないが)で元々は尻尾は9本ではなかったのだが、今は割愛さして貰う事にする。

 …ともかく、鈴は妖狐であるという事だけ認識して貰う事にしよう。


「のぅのぅ主殿、ホレ…わっち、頑張ったじゃろ?

 じゃからその…な?」


「うんうん分かってる。

 その為のケーキなんだから」


 幾らその尻尾1本が100年間生きた証と言えど、こうしてみると本当に見た目通りなのかもしれない。

 陽樹はそんな事を思いながらもう1つのケーキを一口程の大きさにフォークで分け、口に運んだ。


「で、じゃ。主殿。

 執筆の方は進んでおるかの?」


「うっ…今ソレを聞いてくるか」


「当たり前じゃ、わっちは主殿の式にして仕事の管轄を任されておる身じゃからの」


 フフンと自慢げに無い胸を反らす鈴。


「管轄て…原稿受け取って出版社に持ってくだけだろ?

 まぁ、その原稿は一切進んではいないが」


 進んでないというよりは、書き始めてすらいないのだが。


 とまぁ、俺と鈴の何気ないようで何処か変わってるようなこの物語をこれから書き始めて行く訳で、


「取り敢えずはこう書き始めてみるか」


 此処は何処にでもあるようで実際には只の1つしか無い世界、これはそんな世界に暮らす1人の小説家とその小説家の従者の物語、と。


「ん?何か言ったかの、主殿?」


「いや、何も言ってないよ」

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