第2話  - アルバム -



突然の知らせだった。

会議中で電話に出られなかった私は、祐二からの電話を取ることができなかった。

会議が終わり、かけ直してみると、電話口に出たのは祐二のお母さんだった。不思議に思っていた私は、そのあと信じられない言葉を聞いた。

祐二が、死んだ…。





……



「うそ…」

ようやく口からでた言葉はそれがやっとだった。

ついこの間まで一緒に過ごしていた。いつもと変わらない祐二だった。離れることが不安な私を優しく抱きしめてくれた。なのに…。

祐二はずっと病気を抱えていたらしく、ご両親も知らなかったのだという。

先のない未来を一人で受け止めることはとても辛かったはずだ。だけど祐二はそんな素振りを誰にも見せず、ずっと明るく変わらない笑顔で、一人で闘っていたのだ。

電話口で丁寧に話してくれるお母さんからも、痛いほど気持ちが伝わってきた。私にちゃんと伝えようという想いと、愛する息子を失った悲しみが重なり合いながらも、一生懸命言葉にしていた。

静かに電話を切る。今聞いたことはすべて夢で、いつか目が覚めて、隣で祐二が笑ってくれているのだと信じたかった。

でも、今いるここは確かに現実で、そのあとにかかってきた悟くんからの電話もまた現実で…。

私は、何もかもを失った気持ちにさえなっていた。


窓の外、会社の喧騒がとても静かに感じた。




上司に無理をいって休暇をもらった私は、祐二の実家に来ていた。

彼の実家はそう遠くないところにあったから、荷物もすでに届けられていた。

「お通夜は明日になるけど、今日はゆっくりしていってね」

「はい」

祐二のお母さんは、涙を浮かばせながらそういった。

何度か来たことのある祐二の実家。そして、そのたびに入った祐二の部屋。祐二のにおいがまだ微かに残っている気さえするそこに、私は祐二の姿をさがしてしまっていた。もしかしたら、物陰からひょっこり出てくるのではないか、と。

でも、そんなことをしても無駄なのはわかっていた。

部屋を見渡す。部屋の隅には、届いたばかりでまだ開けられていない荷物の箱。静かにテープを破って開けてみると、その箱の中には、どれも祐二の家で見たものが入っていた。私は一つ一つ取り出して並べていった。

最後に出てきたのは、数冊のアルバム。手に取って開くと、満面の笑みでこちらを見ている祐二の姿があった。めくってもめくっても、その笑顔は変わらなくて、見ているだけで私は涙が溢れてきた。

友達と写っているときも、家族で写っているときも、いつだって笑顔だった祐二。もちろん、私と写っているときも…。

私は涙を堪えながら、祐二との3年間を思い出していた。

悟くんの紹介で知り合ったこと。初めてのデートで水族館に行ったこと。夏には海に行って、帰りの電車で寝てしまっていたこと。私が家に押しかけて無理やり泊まったこと…。

本当にいろんなことがあった。いろんなことがありすぎて…。

一度涙を拭った私の目に、今まで見たことのない一冊のアルバムが映った。

「こんなのあったっけ…?」

表紙に〝○秘〟と書かれたそのアルバムには、私が写っていた。

「はは、こんなのいつ撮っ…」

私は次をめくって、思わず固まってしまった。そしてすぐに次を、また次をめくっていく。

そのアルバムの中には、私だけが写っていた。覚えのあるものから、寝顔まで…。いろんな顔をした私が、そこには写っていた。

「………ゆう…じ…っ」

そして最後のページにあった写真にだけ、横に言葉が一言書き込まれていた。

「……はる…か、愛…して…」

指でなぞって確かめる。それは確かに彼の字で、瞬間、私の中につい先週の出来事がよみがえってきた。ずっと堪えていた涙が、堰をきったように溢れ出る。


『遥、愛してる』


私はその場に泣き崩れてしまった。

もう、聞くことのできない彼の言葉を抱きしめて…。



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