第31話 妹と私4(妹の蒸発)


そんな日々を過ごしていて、1年くらい経った頃だろうか。美緒もすっかり成長し、話せる様になっていた。私は妹に対して色々と思うところはあったが、美緒のためにも全てを水に流し、家族で仲良く暮らして行こうと思っていた。ところが、そんな私の思いは、すぐに踏みにじられる事になった。

その日も普段と変わらない朝だった。

私が大学に行こうと準備をしているとき、私の携帯がなった。

(朝から誰だろう?)と思い、画面を見ると、得意先の書店の人からだった。

「いつもありがとうございます。石原です。何かありましたか?」そう聞くと、

「いつも朝来ている女性の配達員の方が来ないんですが・・・どうかされましたか?」そう言われた。

私はビックリして、「すぐに確認して折り返しお電話致します。」といい、電話を切った。

この書店は妹が担当している地域だった。私はすぐに母に電話をかけ、状況を聞いた。

すると母は、「いつもと変わらずに出て行ったよ。」と言ってきた。

(事故にでもあったのか?)と嫌な予感がしたが、仕事に穴を空ける訳にはいかないので、別の人間にすぐに電話をかけ、書店に行くよう手配した。それから私は大学にはいかず、妹の携帯電話に何度も電話を入れた。しかし繋がらない・・・私は悪い予感しかしなかったが、事故なら運転免許書を持っているので、すぐに家にかかってくるだろうとも思った。

結局妹はその日、家に帰っては来なかった。そして次の日もその次の日も家に帰ってくることは無かった。

そして私たちは気がついた。

妹は美緒を置き去りにして蒸発したんだと・・・

そして私が買ってあげた軽自動車と携帯をも持ち逃げしたんだと。・・・


正直、今まで妹は何度も問題を起こしてきたが、今回ばかりは本当に許せ無かった。子供を置き去りにして、いなくなるとはどんな神経をしているんだ?!私の怒りは頂点に達していた。

しかし、それでも最初のうちは美緒のためにと探してみたりもしたが、そのうち、私も母も妹の事は諦めることにした。

(あんなバカ女はいらない。あのバカ女は最初からいなかった事にしよう。)

と心に決めた。


問題は美緒をどう育てていくかということだったが、母がまだ面倒見れるということで、母が面倒を見ることになった。私は、正直、一人暮らしを始めてしまったので、家に帰る事はもうできなくなっていた。

「毎日様子見に来るから。」と私はいい、その日から私は、仕事が終わると毎日母の家に通うようになっていた。

私は、なんとなく、美緒の成長を見るのが楽しかった。その頃の美緒は、もうお話し出来るようになっていたし、冗談を言ったりすると笑ってくれたりもした。2歳半くらいだったと思う。会話をすればするほど可愛らしくて、なんでこんな可愛い子を置き去りにできたのか、あのバカ女の気持ちを知りたいと毎日考えていた。

そして私は美緒を自分の子供にしたいとさえ思った。


私にはその当時、付き合っている女性がいた。名前は香奈かなと言った。友達の紹介で知り合った私たちはすぐに意気投合し、付き合うようになった。香奈は犬のトリマーをやっていて火曜日しか休みがなかったのだが、それでも私たちはお互いを理解し、いい関係性を作っていた。

私たちは交際をして2年、そろそろ結婚を考えてもいい頃合だった。

現に私は香奈にこの少し前に

「会社が軌道に乗ったら結婚しようか・・・」と正式なプロポーズでは無いが、それとなく話して見たことがあった。香奈も「うん。いいよ。」って言ってくれていたので、結婚は秒読み状態だった。それに、向こうの両親にも私の母にもお互いに紹介し合っていたので、家族公認の仲だった。そんな中で妹の蒸発事件が起き、美緒が置き去りにされたことがキッカケで話は、急におかしなことになっていった。

私は香奈に妹が蒸発し子供を置き去りにしていった事を正直に話し、加えて、

「美緒を養子縁組して自分の子供にしたいと思っている。」と言った。

香奈は驚いていた。

そして、「将来自分たちに本当の子供が出来たとき、美緒ちゃんを自分の子と同じように愛せるか自信が無い。」と言われた。当然の反応だろう。私は、答えが分かっていた。それでも美緒の笑顔を見ているとどうしてもそう言わざるを得ない自分がそこにいたのである。

香奈は「少し考えさせて。」と言い、その場は別れた。それからしばらくして1通の手紙が送られてきた。別れ話だった。『どうしても美緒ちゃんを引き取りたいと言うなら、これ以上お付き合いはできません。』というような内容だった。私は、香奈と別れることにした。

多分、私に香奈の事が好きという感情が1ミリでもあったのならば、こんなに簡単に別れたりはしなかったかもしれないが、中2の時のトラウマで、女性不審に陥っていた私は、2年間交際していた香奈に対してさえも、それほどの感情を持ち合わせておらず、何の迷いもなく美緒をとることにしたのである。

そして私は、美緒を養女に迎える決意をした。


 ところが、話はそんな簡単なものでは無かった。養女にするには色々な手続きが必要で、特に未成年者との養子縁組は実父、実母の承認印と印鑑証明の提出、それに加え家庭裁判所での審判が必要との事だった。連絡をとっていない妹の元旦那と蒸発した妹・・・そんな二人の連絡先など知る由もなく、私は養子縁組を諦めかけた。しかし、市役所の担当の人が二十歳はたち超えれば、親の承諾や家庭裁判所の審判無しで養子縁組出来るとも教えてくれた。

私は、この先どうなるか分からないが美緒が二十歳になるまで待つことにした。そして、昨年(平成27年)美緒は無事成人を迎えることになり、私たちは養子縁組することにした。私たちはこれで本当の親子になったのだ。・・・

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