第30話 妹と私3(妹の結婚そして妹の変化)
妹は高校を卒業すると、森永製菓に就職した。あんなチャランポランな妹が、なぜ森永みたいな大企業に入れたのか謎であるが、とにかくこれで一安心だった。子供が二人共働きだしたのを機に生活保護の受給も取りやめていた。このまま平穏な日々が続くものだとばかり私は思っていた。ところがそれはまたある日突然やってきた。妹が森永に就職して2年くらいたったある日、家の電話がなった。私はその頃にはもう「薄衣電解工業」に勤めていてが、土日は基本休みだったので、その日は私も家にいた。ちなみに妹は交替勤務だったので、土日が休みの週もあれば平日が休みの週もあった。
「もしもし。」
母が電話に出た。
「え?そうなんですか?・・・・はい。・・・・本人に確認してみます・・・」
電話の内容がよく分からなかったので、私は母に尋ねた。すると母は意外な言葉を口にした。
「春のやつ・・・借金してるみたいだぞ。」
私はビックリして聞いた。
「借金っていくら?」
「50万円だって。」
「まじ?何に使ったんだ?」
「分からない、ただ、今のローン会社からの電話だった。返済日に返済されていないから連絡が来たみたい。・・・」
私たちは押し黙ったまま、妹の帰りを待った。
妹がいつも通り何食わぬ顔で帰ってきた。私と母はローン会社から電話があった事を伝えた。問いただそうとしたのだが、妹は昔から、怒られると途端に黙り込む癖があった。何を聞いても何も言わない。私と母は落ち着いてからまた話をすることにした。
妹も落ち着いてきたのか事情を話し始めた。何でも彼氏と同棲をしようと思い、そこで必要なふとんや家具やキッチン用品を購入したらしい。彼氏の方はアパートを借りてくれたので、その他のものは全て妹が買い揃えてるらしい。ところが、話を聞いているうちにその金額が尋常では無かった。鍋一式40万円、ふとん一式30万円、家具一式50万円など、セレブが使うような高級品ばかりを購入していたのである。総額100万円を超えていて、数社とローン契約を結んでいたのである。しかし妹ももう二十歳を超えていて大人になっている以上、妹が彼氏とそうしたいならしょうがないということで、
『一切その借金で家族に迷惑をかけない、彼氏と二人でコツコツ返していくこと。』というのを条件に二人の同棲を私たちは認めた。 しかし、この借金が後に母を苦しめ、母の寿命を短くした原因だと私は思っている。それはまた後で書きたいと思う。
それから1年くらい経っただろうか?・・・
妹は借金を抱えたまま家を出ていき、彼氏と同棲するようになった。家には私と母の二人きりになった。正直に言えば、私も一人暮らしがしたかったのだが、長男ということと働けない母を残して一人暮らしをするなんて夢のまた夢の話だと諦めていた。
妹は同棲を機に森永製菓を辞めていた。専業主婦になるということだった。正直、私も母も若い二人が食って行くには仕事は必須だと大いに反対したが、妹の決意は固く、さっさと辞めていて、ほとんど事後報告みたいな感じだった。それでも二人で頑張ってる姿に私たちも見守るしか無かった。それに、ちょうどその頃、私は石原急送の開業に追われていた時期だったので、妹のことなんて考えている余裕もなく、自分の事で精一杯だった。
余談だが、石原急送開業と同時に妹からお祝いと言って、何やらでかい絵が届いた。この絵は今も自分のマンションのリビングに飾ってあるのだが、後から聞いた話によると、その額がなんと50万円で買ったとの事だった。(ちなみにこれもローン)今この絵をネットで調べると2万円そこそこだった。多分騙されて買ったのだろう・・・妹の金銭感覚はおかしかった。そしてこのローンも
そんなこんなで忙しい日々を過ごしていた私と母に、妹から同棲している彼氏と結婚したいと申し出があった。
私たちは反対する理由もなくすぐにOKの返事をした。
そして結婚式・・・彼氏の両親が費用を出してくれたらしく、盛大にかつ豪華に執り行なわれ、私は父親替わりで挨拶をした。母はこういう風に人前で話すのが苦手だったのである。私は妹に今まで迷惑をかけられていたが、ここは大人になって、当たり障りのない普通の挨拶をして結婚式は滞りなく終了した。
そしてしばらくして妹から妊娠したとの連絡があった。予定日は5月頃との事だった。私たちは大いに喜び、向こうの両親と共にお祝いだと宴会を開いた。そして月日は流れ・・・翌年5月31日、妹は無事女の子を出産した。名前は
妹は出戻りという形でまた母の家に帰ってきた。美緒もいるので、2部屋しかないそのアパートでは手狭になるということで、それを機に私が家を出ることにした。と、言ってもなんかあったらすぐに飛んでいけるように母の家から50mも離れていない1部屋しかない小さなアパートを借りた。
私は初めての一人暮らしにワクワク興奮していた。妹の離婚をちょっと嬉しがったりもしてしまった。(ちょっと反省)
そんな訳で、出戻った妹は、美緒を育てるために働かなければならなかった。しかし、子持ちのシングルマザーではどこも雇ってくれないのがオチだった。私は妹に車の免許を取らせ、石原急送で働かせることにした。その当時石原急送は2年目という事もあり、仕事も順調に増えていた。妹に軽自動車を買い与え、午前は書店の配達、午後は旅の友のポスティングをさせた。旅の友ならある程度納期が長いので、美緒の世話をしながら出来るだろうと思ったからである。もちろん妹が仕事している時は誰かが美緒を見ないといけないので、その役は母が買って出ていた。
「足が悪くても少しの時間なら美緒の面倒くらい見れるから」というのが母の口癖だった。
私たち3人は美緒を育てるために互いに協力していた。
しかし、そんなある日、妹の様子が少しおかしくなった。今までは仕事が終わると、まっすぐ母の家に帰っていた妹が、仕事が終わってもまっすぐ家に帰らず、夜の8時とか9時とかに帰ってくるようになった。母が、「どこへ行っていたんだ?」と問いただすと、
「久しぶりに友達から連絡があって会っていた」と説明されたそうだ。母が、
「美緒がいるんだから早く帰って来ないとダメだろう?母親なんだからしっかりしろ。」と注意をし、しばらく口論が続いたとのことだった。私は家にいなかったので、これは母から後で聞いた事だ。しかし、妹は次の日も、そしてその次の日も、美緒をおいて遊び回るようになっていた。堪忍袋の尾が切れた母は、
「お母さん、足が悪いのに美緒の面倒見ているんだ。そんなに遊びたいなら、美緒も一緒に連れて遊びに行け!」そう怒鳴ったとの事だった。多分私もその場にいたら同じことを言っていただろう。母の言動は特に間違っていない。むしろ、美緒を一緒に遊びに連れて行くこと自体ナンセンスだと気づき、遊び回るのをやめる事への期待からの言葉だったと思う。しかし、妹には常識が通用しなかった。妹は次の日、仕事が終わると家に一旦帰り、まだ1歳を過ぎたばかりでしゃべることも歩くこともできない美緒を抱っこし、遊びに出かけた。帰ってきたのは夜10時すぎとの事だった。それからも毎日のように美緒を夜まで連れ回して遊んで帰ってくるようになったらしい。この時、私はまだ妹の変化を知らされてはいなかった。石原急送の営業と大学を両立している私には言えないと思ったようだ。
しかし、私にもすぐにバレる時が来た。その日私は、久しぶりに美緒の顔が見たくて、母の家に行った。美緒がいないことに気づいた私は、
「美緒は?」と母に聞いた。
すると、そこで、今までの事実を聞かされた。
「あいつは一体何なんだ!美緒を育てる気はあるのか?」私は興奮していたが、冷静になって(美緒がいるんだから落ち着いて話そう。)そう自分に言い聞かせていた。
いつもは夜の10時には帰って来ると聞かされた私はその日は妹が帰るまでずっと母の家で待っていた。ところがその日は夜10時を回っても帰ってこなかった。それでも私は帰ってくるまでずっと待っていた。結局妹が帰ってきたのは夜中の12時すぎだった。
私は開口一番
「今、何時だと思っているんだ?」
妹は私がいることに驚いていた。私は間髪入れず説教をするつもりだったのだが、美緒の様子がおかしいのに気がついた。美緒は床に落ちているおもちゃを口にいれ何か声を上げていた。まだしゃべれない美緒は何かを訴えかけていた。なんだろう?と思い、おもちゃを口に入れていることからお腹がすいてるのかなと思い、冷蔵庫にあるジュースを与えてみた。すると今まで見たこともないような速さでそのジュースを一気に飲み干した。私は母に、「美緒、お腹すいてるみたい。何か作ってあげて。」といい、母に美緒を別の部屋に連れて行ってもらい、妹と二人で話した。
「お前は、どういうつもりだ?美緒があんなに腹空かして、あれじゃーまるで飢えた難民と一緒じゃないか。美緒をちゃんと育てるつもりがあるのか?」
妹は私が説教を始めると必ず押し黙る癖がある。子供の時からそうだった。この日も一切しゃべろうとはしなかった。ただ、「美緒をどうしていたんだ?」と聞いたときだけ、「無認可の24時間やっている保育所みたいなところに預けていた」と返事してきた。あとでその保育所について調べたのだが、そこは、預かるだけで食事等は持ち込みをしなければならないところで、持ち込みが無い子供にはそのまま親が来るまで放置しておくといった最悪な場所だった。今ではこんな保育所は考えられない事だが、当時はこんな保育所もいくつもあったようだ。私は、妹に、
「美緒の面倒をちゃんと見ないんだったら、車の鍵返してもらって、うちの会社辞めてくれるか?そんないい加減な奴は雇いたくないから。」そういって車の鍵を返すよう促すと、流石にビックリしたのか「ごめんなさい。これからちゃんとします。」と言ってきた。初めて妹の謝罪を聞いたような気がした。それ以上は美緒もいるので、止めることにした。
「ちゃんとしろよ。」
私は、そう一言いうと、美緒と少し遊んでから、家に帰った。
そして次の日から、私はしばらく仕事が終わると妹と一緒に母の家に帰るようにした。母の家で夕飯を食い、家に帰るのが面倒くさい時は母の家に泊まることもあった。
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