第28話 妹と私1(妹は最悪の汚点)


 塾を始めたところまで話したが、その後塾を始めてからの地獄の日々を話す前に、どうしてもここで一旦休止し、妹の事を話さなければ、私の人生は語れない。

私の人生において妹の存在は最悪の汚点だった。今まで妹の事について書いてこなかったのは、あまりにも出来事が大きすぎて、ちょっとしたエピソードとしては書けないと思ったからだ。私にとって妹は正直いらない存在だった。もちろん、幼少の頃は仲いい時期もあったが、今となっては確執といった生易しい言葉では片付けられないほど、憎しみが増殖している。それをこれから話したいと思う。


 まず最初に迷惑をかけられたのは妹が小学3年生で私が中学3年生の時である。

私の高校受験が間近に迫った十一月下旬。学校から帰ってきて遊びに行ったはずの妹が夕方6時になっても帰ってこなかった。私は勉強していて母は仕事をしていたのだが、二人共それを放り出し、妹を探し回った。あちこち走り回り、妹の友達や知り合いの家を転々と探し、近所の公園やスーパー、ゲームセンターなど、考えられる場所を全て探した。それでも見つからず、夜の9時を過ぎた頃、私と母は警察に届ける事にした。警察に行こうとした正にその時、妹が何気ない顔をして帰ってきた。私と母はカンカンに怒り、どこへ行っていたか問いただすと、「知らないおじさんとドライブしていた。」と平然と答えてきた。話を聞くと、「お菓子をあげる」というよくある誘い文句にのって、その知らないおじさんについていき、そのおじさんの車であちこちドライブしていたとの事だった。一歩間違えば誘拐事件や殺人事件に発展していた可能性もあり、私と母は青ざめた。この『おじさん』が本当に子供好きで妹と一緒にドライブしたかったのか、それとも妹から家庭の事情を聞いてお金にならないと思われ解放されたのか分からないが、無事帰ってきたことに私と母はホッとして警察に一応届出を出した。妹にはもう二度と知らない人には「ついていってはいけないよ。」と念を押し、この騒動は一件落着した。

 

 次に迷惑をかけられたのは妹が中学2年生で私が「エイスクジャパン」で働き始めた頃である。この頃、母は足の手術のため病院に入院していた。家には私と妹だけだったので、炊事・洗濯、部屋の掃除や家計のやりくりなど全て私がこなしていた。妹に家事の分担を言い渡すのだが、妹はほとんどやることがなく、実質私が全部やっている感じだった。そんな中で妹は当時人気があったアイドルグループの「光GENGI《ひかるげんじ》」にはまっていった。私が毎月おこずかいだと2000円を渡すと、計画性もなく、すぐに光GENJIのグッズに消えていた。それでもおこずかいの範囲内でやっている事なので、文句は何も言うことはなかった。ところがそんなある日、事件が起きた。その当時、必要経費の支払いは銀行引落という所はほとんどなく、銀行振込が一般的だった。支払い期日に振込をするために、私は封筒に光熱費や家賃のお金を入れ、タンスの引き出しにしまっておいた。そして支払日に銀行へ行こうとタンスの引き出しを開けると全ての封筒が消えていた。私は最初、泥棒かと思ったが、泥棒にしては部屋が荒らされてはいないし、一直線でお金をとっていることなどを考え、妹の仕業だと思った。私は妹を問いただした。最初妹は白を切っていたが、「じゃー警察に届けるしかない。」と私が言うと妹は観念したらしく、正直に盗んだと言ってきた。話を聞くと、光GENJIの追っかけにお金が必要で、盗んでしまったとのことだった。お金は全て追っかけに使ったと聞かされた。家賃を含め10万円近くあったお金を全て使い果たした妹に流石に我慢できず、私は始めて妹を殴った。この痛みを思いだし、もうするなという思いを込めて、平手で頬を2・3回ひっぱたいた。妹は泣いていたが、結局最後まで「ごめんなさい。」という謝罪の言葉は1回も言わなかった。私の中で妹への憎しみが益々増殖してはいたが、これ以上こうしていても、らちがあかないので、私はその場は「もうするな。」と念を押し、ひとまず治めることにした。

その月の家賃や光熱費はなけなしの貯金を切り崩して支払うことにした。

 

 そして次の月。私は先月の教訓もあり、支払うお金を別の場所に隠すことにした。本来、持ち歩く勇気が私にあれば良かったのだが、その当時の私にとって、10万円を持ち歩くなんて、とてもじゃないが出来る芸当ではなかった。私は、妹が家にいない時を見計らって、絶対見つからないだろうと思われる場所にお金をしまった。そして支払期日・・・

お金が入った封筒は隠しておいた場所からまた消えていた。そして封筒の代わりに手紙が置いてあり、「お兄ちゃんへ。ごめんなさい。私はこのお金で光GENJIのコンサートを見たあと自殺します。」そう書かれていた。私は、驚いた。とりあえず、警察に行き、事情を話した。そして光GENJIのコンサートがどこで行われるのか調べることにした。インターネットなどない時代、どこでコンサートが行われるかはアイドル雑誌が頼みの綱だった。私は本屋に行き、アイドル雑誌を隈なく見たが、翌月のライブ予定などが乗っているだけで、たった今行われているライブ情報はなかった。冷静に考えてみればすぐに分かることだったが、この時は流石に動揺していて、どうすればいいか分からなかった。私はすぐに政芳とみつに電話して助けて貰うことにした。二人も協力してくれて、何人かメンバーを揃えてくれた。その中の一人が、光GENJIのコンサートがある場所を知っていた。東京ドームだった。私たちはすぐに友人の車で東京ドームへ行き、光GENJIのコンサートが終わって退場してくる観客の中から妹を探した。しかし、何万人もいる人間の中から1人を見つけることなど出来る訳もなく、仕方がないので私たちは家に帰ってきた。家に着いてしばらくすると家の電話がなった。神田警察署からだった。

「妹さんを補導しています。すぐに迎えにきてもらえますか?」

私はホッとしたのと同時に怒りが沸いてきた。友人にもう一度お願いし、車で神田警察署まで送ってもらった。神田警察署に着くとそこに妹がいた。妹は私の顔を見るとヘラヘラ笑っていた。私の怒りは頂点に達していたが、場所が場所なだけに私は妹を連れて静かに帰宅することにした。

「みんな心配して探してくれたんだぞ。」と、私の友人たちに(お礼ぐらいしろ。)という思いで私は妹に言ったのだが、妹は押し黙ったまま、何も言葉を発しなかった。

家に帰った私は、また妹を殴った。前回より回数も増えていたと思う。私に迷惑をかけ、私の友人に迷惑をかけても「ごめんなさい。」の一言がないことがどうしても許せなかったのだ。私はその日を境に、完全に妹が嫌いになった。


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