第29話 妹と私2(妹への殺意)
母の入院は長引いていた。当初の予定では2ヶ月くらいと聞かされていたが、リハビリがうまくいかず、3ヶ月たっても退院は出来なかった。お金も私の稼ぎだけではどうすることも出来ない状態になってきた。そんな中、母が、母の友人から生活保護の話を聞いてきたらしく、受給の申請を出したと聞かされた。私はこの時、生活保護が何なのかよく知らなかったが、入院費が無料になると聞かされ、安心して喜んだ事を覚えている。私は母に、妹の不祥事は一切言わなかった。言ったら心配するだろうし、また無理して、退院すると言い出しかねなかったからである。
妹は、あの事件以来2週間はおとなしくしていた。私は、妹が完全に嫌いになっていたが、生活をさせない訳にはいかないので、朝・昼・晩の3度の食事は食べさせていた。今月も妹がお金を使い込んだことで、貯金を切り崩したこともあって、生活は本当にギリギリまで追い詰められていた。
そんな中、一旦は落ちつたと思われた妹だが、今度は家から通帳と印鑑を持ち出し、姿を消したのだった。この日を境に家出をしたのだった。最初は必死になって探していたのだが、私も仕事がある関係上、毎日は探してられなくて、週末の会社が休みだった土日を利用して探すようにした。お金は既に預金通帳から全て引き出されていて、家には無一文になっていた。次の給料日まであと2週間・・・財布の中にある少しのお金で生活しなければならなくなった。私は怒りを通り越し、妹に対しては憎しみだけが増殖していて、今妹が目の前に現れたら殺してしまうんじゃないかと思うくらい、私は金銭的にも精神的にも追い込まれていた。
私は土日に、妹の交友関係をあたり、手がかりを探った。そして、有力な証言を得ることができた。それは妹の先輩でヤクザ屋さんとつながりのあるH美の家にいるかもという情報だった。私はそのH美の住所を聞き、その家を訪ねていった。家のチャイムを押すと中からイカツイ男が一人出てきた。見るからにヤクザかチンピラ風だ。私は意を決して言った。
「私の妹がお邪魔していませんか?」
「はぁ?妹って誰だ?」
私は妹の名前すら言いたくはなかったのだが、仕方なく、
「春江です。」
と答えるとすぐに、
「いるよ。」
と言われ、家に上がるように言われた。
部屋に入っていくと男2人、女が1人、そして妹がいた。
私は妹の顔見たら我慢が出来なくなった。
すぐに妹に近づくとその場で妹をボコボコに殴り始めた。私の剣幕にビックリしたのか、周りにいた男性2人は私を制御しようと止めに入った。私はお構いなしに妹を蹴っ飛ばし、引っ叩き、今の時代なら警察に捕まっているだろうと思われるぐらいぶん殴った。
私も若かったんだと思う。感情が制御出来なかった。止めに入った二人の男性に妹から引き離され、その場は終わった。もし、この男たちがいなければ、多分私は妹を殺していたかもしれない。今思い出すとゾッとする。
しかし、あの時は本当に精神的に追い込まれていた。この場に居合わせた、チンピラ風の男達に感謝しなければならないかもしれない。
その男たちは私の剣幕に圧倒されていたんだと思う。
私が「連れて帰ってもいいでしょうか?」
とちょっと低い声で言うと、すぐに「いいぞ・・・」って言ってくれた。
私は妹を連れて帰った。私はその足で妹の中学校へ行った。
ちなみに妹の中学校は私と同じく川崎市立S中学校で担任も同じく一之宮先生だった。
妹はいなくなってから不登校の状態が続いており、学校の方でもすごく心配していたので、見つかったという報告をするためだった。その日は土曜日だったが、部活動で一之宮先生がいるということは知っていたので、すぐに知らせたかった。
職員室に入っていくと一之宮先生がいらっしゃった。
「先生、妹が見つかりました。」
そう私がいい、妹を職員室に入れると、私がボコボコにした妹の顔が腫れているに気がついた一之宮先生が妹に言った。
「その顔、どうした?」
「お兄ちゃんに殴られました。」
一之宮先生は笑いながら言った。
「何で、お兄ちゃんが殴ったか分かるか?お前を心配しているからだろう。顔の腫れや痛みなんかは3日もすれば消えてなくなる。でも今日の痛みは忘れるな。体の痛みだけじゃない、心の痛みもだ。2人だけの兄弟だろう?お母さんが入院している今、二人が協力しないでどうするんだ?ちゃんとお兄ちゃんを助けてやれ。」
そう言ってくれて更に、
「でも石原がどうしても協力する事が出来ないというのなら、せめて心配かけたり、迷惑かけたりはするな。それが家族としての最低条件だろう・・・」
と言って妹を諭してくれた。
妹は泣きながら、「分かりました。」と言っていた。私もその「分かりました」を信用して見ようと思い、一之宮先生にお礼を言って、中学校を後にした。
それから妹と家に帰ると、私も冷静になり妹と話をし、ちゃんとすると誓ってくれたので、とりあえず私は妹を許すことにした。
そして月日は流れ、妹もまじめに学校に行くようになり、妹は県内で最低レベルの学校ではあるが、一応公立高校へ進学することができた。その間には母も退院してきて、家の貯金が一銭もなくなっていることを問いただしてきたが、色々とごまかして、結局うやむやにしてしまった。
「また一から貯金すればいいじゃん。」
そう私は母に言い、笑ってごまかした。
それからは生活保護の受給もあり、多少生活は楽になった。妹の高校の学費や、母の病院の治療費などはありがたいことに生活保護から支給されていたからだ。それからの数年は妹もおとなしく、私たちは平穏な日々を送っていた。
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