第25話 社会人③ー4(三度目の辞表)


セミナーから帰ってきた私は、最後に皆の前で発表した自分自身のビジョンについてずっと考えるようになっていた。

今のこの仕事は楽しい・・・しかし、この仕事をずっとしていて年を取った時、自分は後悔しないんだろうか?いや、絶対後悔するだろう・・・でも、教育の仕事をするには大学に行かなければ絶対に無理だ。でもこの仕事していたら大学になんて絶対行けないじゃないか・・・じゃーどうする?・・・

そんなことばかり考えるようになっていた。そして私は、ついに結論を出した。

そうだ!自分で会社を作ればいいんだ。自分で会社を作って従業員に働いてもらって、空いてる時間に大学に通えばいいんじゃないか?・・・口で言う程簡単なことではなかったが、思い立ったら行動しないと済まないタイプの私は、すぐに色々と情報を集めた。その中でも候補に挙がったのが、コンビニ経営、ピザ屋の経営、そして運送会社の3つだった。

その中で、色々調べていくと、やはり24時間営業の年中無休経営のコンビニとピザ屋は体の自由がきかないという理由でやめ、やはり運送会社が一番いいだろうと結論に達した。

そして色々調べていくと、軽自動車なら陸運局で簡単に営業許可書が貰えると分かり、私は軽自動車メインの運送会社を設立する事に決めた。初めは仕事が取れるかどうかも分からないので、従業員などは雇わず、全てを自分でやると決めていた。

会社にはまだ辞める事は伝えておらず、有給休暇が残っていたので、有給を消化しながら、会社設立のために、事務所選びで不動産会社を回ったり、事務用品を揃えたり、車を購入したりと、扮装していた。

それらのお金はどうしたのかというと、当時はバブル真っ只中という事もあり薄衣電解工業での給料やボーナスは結構良かった。しかも、母も私も貧乏性だったため無駄遣いを全くしていなく、私には貯金が大部あった。私は母にその金を使って会社を設立したいと伝えると母は快く承諾してくれた。だからその金を使い、事務所から軽自動車まで全て借金なしで購入することが出来た。


そして頃合をみて私は会社に辞表を提出した。相澤課長に辞表を提出したのだが、相澤課長は驚く様子もなく、「こんな日が来ると少し思っていたよ。石原君はこの会社では満足できない奴だと思っていたよ。」と言ってくれた。

「すみません。1ヶ月間、みっちり引き継ぎを行って辞めますので、お願いします。」

私は、ここまで育ててくれた相澤課長を裏切るようで本当に心苦しかったのだが、それ以上に私の決心は強かった。

それから1ヶ月間、私は部下たちにみっちりと引き継ぎを行った。

そして私が退職する日の最後の朝礼で私はみんなにお礼の言葉を述べた。なんて言ったか今でもはっきり覚えている。それは、薄衣電解工業は私の社会人としての勉強をさせてもらったいわば学校みたいな場所だったから・・・

感謝の意を込めて今一度ここに記しておこうと思う。


「みなさん。今まで本当にありがとうございました。私がこの会社に入社してからもう6年の月日が経ちました。この6年間というのは、私にとってはまるで小学校の6年間と同じように色々と覚えることが多く、社会人としてのイロハを叩き込まれた6年間でした。私は今日小学校を卒業し、晴れて中学校へ進学します。自分で会社を経営し、成功するか失敗するか分かりませんが、精一杯頑張ってみるつもりです。みなさんも体に気をつけて、頑張ってください。・・・」


こんな内容であいさつした。みんなから暖かい拍手が送られ、私はその日、6年間勤めた「薄衣電解工業」を円満退社した

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