第17話 中学校時代③ー3(復讐)


高校の合格発表が終わり、受かった人、落ちた人、色々な人が泣いたり笑ったりしていた。ただ、「滑り止め」などを受験していた人もたくさんいて、私のクラスは卒業式前に全員の進路が決まった。全員の進路が決まると一之宮級では一つの儀式が行われる。

それは、一之宮先生は願掛けと称して、冬休み以降、口ひげとあごひげを伸ばしっぱなしにし、全員の進路が決まったらそれを剃るというものだった。今年も例外なく、冬休み以降、ひげを伸ばしっぱなしにしていたので、それを剃り落とすという儀式だった。

先生はひげを剃り落としきれいさっぱりの状態になった。私たちはみんな歓声をあげた。


しばらくして卒業遠足の時期になった。私たちの学校では、卒業遠足は1泊2日の学年旅行だった。場所はどこへ行ったか忘れてしまったが、緑生い茂るきれいな場所だったと記憶している。なぜ、私がこの話を持ち上げたかというと、この旅行で先生方の粋な計らいがあったからである。それはバスで現地まで行ったのだが、そのバスにドラムやギター、ベースなどを積み込んでくれたのだ。それはこの旅行の数日前、私たちは最後なので、何か思い出に残ることをしたいと考え、先生たちに旅行先でのライブをやらせてくれるようお願いした。ダメもとで提案したのだが、すんなりオッケーがでた。そういうわけで、私たちは楽器とともに現地へ向かったのである。

夜、1階のホールにライブ会場を作ってくれて、私たちはそこで、ライブをした。もちろん、見に来るのは強制ではないので、見に来たい人だけ見に来るシステムになっていた。が、結構多くの人たちが見に来てくれて、「よかったよ。」って言ってくれたので嬉しかった。


旅行から学校に戻ると、3年生の代表で先生方にお礼を言うセレモニーがあったのだが、その3年生の代表は私だった。

私は先生方にありったけの感謝の言葉を述べた。


そして卒業式当日。私は今までにないくらい泣いてしまった。こんな感情が自分にあるとは思いもよらなかった。

ありがとう。私の人生を変えてくれたこの中学校はまさに私の母校だ。

小学6年生の時、父親が亡くなり、そこから転落した人生を送りかけていた私を救ってくれた多くの仲間、先生方に感謝したい。

本当にありがとうございます。


卒業式が終わり小学校の時のクラスメートが小学校に挨拶しに行くと言いだし、私も誘われた。私は行きたくはなかったが、誰かが、

「堂々と行って、中島を見返してやればいいじゃん。」と言ったので私はその気になり、中島に挨拶するために皆と小学校に行った。

職員室に入ると中島をはじめ数人の先生方がいらっしゃった。

「無事中学校を卒業できました。」と皆であいさつすると、中島は一人一人どこの高校へ進学したのか聞き始めた。私は一番端っこに立っていたのだが、中島は私の手前の子で聞くのをやめた。

(まだ、根に持ってんのか?それとも俺が高校に進学してないと思ったからか?・・・)

怒りを通り越して呆れていると、別の先生に「石原君はどこに受かったの?」と聞かれたので私は高校名を告げた。私が高校名を告げると「おぉ!」と歓声が上がった。

中島だけは相変わらず無視をしていた。いや、バツが悪かったのかもしれない。不良になると太鼓判を押した生徒が、立派に高校生に成れる訳だから、これ以上のバツの悪さはないだろう。私は中島にひとこと言ってやりたい気持ではあったが、高校名を告げ、職員室で歓声が沸き起こった事で、私の復讐は完遂していた。私は、それ以上何もいう事も無く、小学校を後にした。私はその日、初めて気持ちよく、小学校から家までの道のりを歩いて帰れた。


ちなみに一つ余談だが、私が中学3年生の時、私たちの中学校は小さいながらも新聞記事になったのである。内容は「あの校内暴力であれていた桜本中学校が先生方の努力により、素晴らしい学校になりました。・・・」みたいな感じだった。・・・

正直校内暴力でダメ学校ってレッテルを張られた時にはすごく大きい記事だったのに、いい学校になると記事は手のひらで隠れてしまうくらいの小さな記事になっていた。やはり世間というのはスキャンダルを楽しみにしているんだと改めて実感することが出来た瞬間だった。

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