第16話 中学校時代③ー2(小さな夢そして高校合格!)


それから時間は急加速し、受験シーズンを迎える事となった。正直、貧乏だった私は高校へは進学せず、働くつもりになっていた。あれからも勉強はしっかりやっていたので、成績もそれほど悪くは無かった。しかし、お金の問題で私は高校を断念せざるを得なかった。第1回の進路希望調査が行われ、私は真っ先に就職とそこに書いた。後日、担任の一之宮先生に呼ばれた。

「就職って書いてあるけどどういうことだ?」

「うち、母子家庭で貧乏だから高校行くのは無理なんです。」

そう言ったらすぐに、何枚かのパンフレットを私に手渡した。

「そうだろうと思って色々資料をそろえて置いたよ。」

そう言われ、それを眺めると、奨学金の案内のパンフレットだった。

しかし、私は奨学金という制度を知らなかった。

「これは何ですか?」

「それは奨学金と言って学校へ行くためのお金を借りたりできる制度だよ。石原の場合、成績が優秀だから、もしかしたら、こっちの返さなくてもいい奨学金に受かるかもしれない。調査書を持って親と一緒に面接しに行かなくっちゃならないけど、受けるだけ受けて見たらいい?それにもしそれが駄目だったとしても、こっちの奨学金は返すタイプだけど、石原の成績ならまず受かるから、将来働いてから、ゆっくり返していけばいい・・・」

そう言って、更に

「奨学金はたくさんあるから、今渡したパンフレットのもの全て受けてごらん。もし、必要無ければ辞退できるし、借りておいて使わなければ、あとで一括返済も出来るから、借りておいて損はないと思うよ。」

と教えてくれた。私は目からウロコだった。こんな制度があったなんて全然知らなかった。

今までだれも教えてくれなかったし、学校の先生は皆、小学6年生時の担任だった中島のような奴ばかりだと思い込んでいたから、先生に相談するのも諦めていた。


私は家に帰ると母に奨学金の事を伝えた。母は奨学金の事は知っていたが、高校くらいは自分のお金でという思いから、ある程度高校の資金は貯めていると聞かされた。私はそれすらも知らなかった。私は小学校の時の件もあり、母を避けていたので、母と外を歩くことは中学生になって一度も無かったし、家の中でも同じ空間にいる事が嫌だったので、2部屋しかない小さなアパートでも母がいる部屋とは違う部屋に必ずいるようにした。正直このころの私は母と一言もしゃべらない毎日を送っていた。だから、ましてや自分の進路の事なんて母と真剣に話すことなど考えられなかった。

まさかお金を貯めていたなんて・・・そう思ったが、そのお金は極力使いたくないので、私はもらってきたパンフレットの奨学金を全て申請したいと伝えた。

母もそれを快諾し、私は奨学金の申請をした。

後日、返還義務のない奨学金2か所から面接通知が送られてきた。1つは生田高校、もう一つは川崎大師の青少年会館だった。どちらも面接内容はほとんど同じで、将来の夢、自分のビジョンについてのプレゼンだった。

私はこのころ一つの小さな夢が芽生えていた。それは、学校の先生になるということ。

(中島のようなクソな先生もいるが、一之宮先生みたいに親身になって考えてくれる先生もいる。俺は中島のようなクソな教師から生徒を守り、自分の人生経験を生かし子供たちと一緒に成長していきたい。)

そう考えるようになった。また、実のところ、そのころテレビ番組で金八先生が大人気で、第2シリーズの『腐ったみかんの方程式』は私にとって、教師になるためのバイブル的存在と言っても過言ではないくらいに影響を受けていた。

私は面接で、そのような事をプレゼンした。実名こそ出さなかったが、本当のことを正直に、かつ素直に自分の気持ちを伝えた。

後日、審査結果が送られてきて、申請した全ての奨学金を受給することができるようになった。私はこの日から、受験勉強に専念することができるようになった。



そして月日は流れ、受験→合格発表と時間が過ぎた。私は見事第1志望に合格することができた。あれほど、中島に不良になると太鼓判を押されていた私が、高校生になれるとは夢にも思っていなかった。

この日、久しぶりに家族と笑った。

私にとっては最良の一日だったことに間違いはない。

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