第14話 中学校時代②ー2(女嫌いに・・)


それからは、何の事件も無く穏やかな日々が続いた。中2の頃の私は、一番落ち着いた安定期だったのかもしれない。吹奏楽部ではユーフォニュームという低音楽器を担当させられ、女子部員しかいない中、男子部員1人で頑張っていた。弁論大会ではクラス代表に選ばれ、生徒会に立候補し会計担当になった。勉強面ではこのクラスには原君というのがいて、彼がまた東に負けないくらい頭がよく、私はこのクラスでも2位にしかなれなかった。


特筆すべきなのはその年の夏休み、私はエレキギターが欲しくて、再びアルバイトをした。

今度は母が昼間働いている造船所の中の食堂で、皿洗いのバイトだった。母が社長に頼んでくれたのだ。じきゅう500円だったが、月曜から金曜日まで毎日働き、1日に6時間働いて3000円になり夏休みが終わるころには15000円近くになっていた。そして私は前回新聞配達して稼いだお金の残りを貯金していたので、それと合わせ30000円のエレキギターを購入した。メーカーはフェンダーのストラスキャスターだった。色はオーソドックスに茶系でピックアップは白、よくある柄だ。しかし、私の経済力で買うには選んでいる余裕なんてないので、「気にいったもの」ではなく「買えるもの」で選んだ。

それでも嬉しかった。私はビートルズのギターソロを練習し始めた。私はこのころからギター雑誌を読むようになった。しかし、自分では買うお金が無いので、同じくギターをやっていた友達を探しては、仲良くなり、いらなくなったギター雑誌を借りて読んだ。

1ヶ月遅れ、2カ月遅れは当たり前、ひどい時になると1年前の雑誌とかも借りて読んでいた。その中で、色々な外人のギターリストを知る事になった。リッチーブラックモア、エリッククラプトン、ジミーヘンドリックスなどあげたらきりがない。その中でもディープパープルのリッチーブラックモアに魅かれていった。ビートルズを裏切るわけではないが、このときの私は、ディープパープルのコピー1色に染まっていた。


それから間もなくして文化祭のエントリー募集が始まった。私は昨年と違い、幕間では無く、プログラムエントリーしようと一緒にやってくれる人を探した。そして見つけたのが、川原だった。川原は名を耕平といい、私は耕平と呼んでいた。二人は文化祭のプログラムにエントリーし、エレキギターとフォークギターの異色コンビで演奏する事にした。


文化祭当日、私と耕平はステージに上がり、洋楽中心に演奏した。結果は散々だった。拍手もまばらで、声援もほとんどなかった。ドラムもいなかったし、エレキとフォークギターの組み合わせはあまりにも無謀過ぎた。そしてなにより、洋楽中心に演奏したことで、自分たちの自己満バンドになっていたことが一番の失敗だった。文化祭のあと皆には、しばらく、オ○ニーバンドとからかわれた。最悪の1日だった。

そんな私だったが、見てくれている人もいた。

次の日の放課後・・・下級生の石井さんから手紙をもらい、学校の近くの飛行機公園(その当時の通称)に来るように書かれていた。

私は指定された時刻に指定された場所に行くと、石井さんがいて突然、

「付き合って下さい。」と言われ、箱に入っているプレゼントまで渡された。

私は正直、石井さんの事を良く知らなかったけれど、顔を見たらすごくかわいい顔をしているし、その時付き合っている子もいなく、好きな子もいなかったので、

「いいよ。」と返事した。付き合っているうちに好きになるかもしれないそう思ったからだ。

しかし、これが私の生涯のトラウマになる事件に発展するとはこのときの私は想像もしていなかった。

私と石井さんは次の日から一緒に帰るようになったのだが、付き合いだして3日目・・・突然、石井さんの方から「別れて下さい。」と言ってきた。

「?・・・俺なんかした?・・・」

意味が分からず、素直に聞いた。

「いいえ。石原先輩は悪くないんです・・・ただ・・・」

と言って言いにくそうに言葉を詰まらせた。

「何かあるなら言いなよ。」

私が催促すると、しばらく押し黙っていた彼女が、

「誰にも言わないで下さい。」

と前置きし、話し出した。

「根岸先輩に石原と別れろって言われました。」

根岸とは根岸めぐみと言って私と同じクラスの女子だった。

「石原と別れなければヤキ入れるよ。とも言われました。」

彼女は泣きだした。

「なんで根岸がそんなこと言うんだろう?俺たちに関係ないじゃん。」

私は本当に関係ないとこのとき本気で思っていた。

「気にしないで大丈夫だよ。付き合おうよ。」

「でも、・・・」

(そうか!ヤキ入れる。って言われてるのか!)

「わかった!俺が根岸に話付けてくるよ。石井さんには手出ししないように言ってくるから。もしなんかあったらすぐに俺に言いな。」

そう言ってその日は別れた。そして次の日、私は根岸の所へ行き、もう二度と俺たちに干渉するなと釘を刺した。そしてもし、石井さんになんかしたら絶対に許さないからなと強い口調で念を押した。根岸はその場では「分かった。ごめん。」って素直に謝っていたが、この後からが大変だった。


放課後、根岸の取り巻きの一人(名前忘れた。ごめんなさい。)から呼び出され、その子について行くと、そこには根岸を中心とした女子6名が立っていた。と、次の瞬間、その女子たちは私を取り囲み、言葉の暴力を浴びせてきた。

「きもい!」「死ね!」「ばか!」「ブサイク!」「調子に乗ってんな!」・・・・

どのくらい時間が経っただろうか?女子6人に囲まれ永遠に悪口を言われた私は精神崩壊寸前だった。何も言い返す事も出来ず、ただ、茫然と立ちすくんでいた。しばらくして、彼女たちはすっきりしたのかその場から立ち去っていた。残された私はしばらくその場に留まっていた。身体的な暴力なら2・3日もすれば傷も癒えるだろう。しかし、精神的な暴力は一生消える事はない。私はこの日を境に女性不審に陥った。

まだ誰にも言った事が無いのだが、正直な事を言うと、これ以降、女の人とは何人かと付き合ったが、本気で人を好きなった事は一度もない。今の今まで本気で好きになった人がいない。正直まだ怖い。・・・完全なトラウマ状態だ。


とにかくこの日以降、私の中の女性を見る目が変わり、結局石井さんともすぐに別れた。 

根岸めぐみによって、私の恋愛観は完全に崩壊したのだ。

なぜ、根岸がそんな行動をしたのか。あとから、あの時私を囲んでいた女の子のうちの一人から聞いた話だが、なんでも根岸は私の事が好きだったらしく、私が後輩と付き合いだしたのが許せなかったらしい。それで、石井さんに別れるよう迫った。ところが、私から「石井さんにちょっかい出すな。」的なことを言われ、愛情が憎悪に変わったんだとのことだった。「あの時はごめんなさい。」と、その子は謝ってくれた。しかし、私の心の傷はそれだけで癒える事はなかった。

その後、根岸とは卒業するまで一度も話す事は無かった。もちろん、卒業してからも会う事は無かったから今彼女が何をしているのか知らない。

いずれにせよ、彼女の事は一生許す事ができないと思う。

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