第13話 中学校時代②ー1(親友との絶交)


それからは特筆する事もなく、私は中学2年生になった。

その頃私の学校では、新校舎の建設が始まっていた。私たちは旧校舎を取り壊し、そこに新校舎を建設するため、校庭にプレハブ校舎を建て、そこで1年間学校生活を過ごす事になっていた。


クラス発表の日、私はドキドキしていた。

なぜなら、私は東と絶対同じクラスになりたかったからである。私の心はもう東だけだった。私の人生を変えてくれた東・・・勉強の事、音楽の事、そして何より不良の道に進まなかった事・・・その全てが東から始まった事なので、私は東に多分友達以上の感情を持っていたんだと思う。しかし、現実はそう甘くは無かった。私は2年1組。東は2年4組になっていた。私の中で何かが崩れ去った。しかし東はそんな私の方へ来て、

「クラスは違くなっちゃったけど俺たちは永遠に友達でいような。」

と言ってくれて、私は嬉しかった。


教室に行くと、出席番号順に座るよう黒板に書いてあった。私は席に着いた。辺りを見渡す。すると私の前に嫌な奴が座った。石井だ。不思議な事に私のクラスには『あ』から始まる名字の子がいなかった。

1番石井、2番石原、3番上野・・・だった。

この1番に座っている石井という奴。柔道部に入っていてすごく嫌な奴だった。1年生の時、隣のクラスだったのだが、休み時間になると私のクラスにやって来ては自分より弱そうな奴を見つけて、柔道の練習だといって絞め技をかけてくる奴だった。私も1回相手をさせられたが、身長が高く、横幅も大きかったので、抵抗むなしく、首を絞められ気絶した事があった。気がついた時には保健室のベッドに寝ていて、一歩間違えば死んでいたかもしれないと保健室の先生に聞かされた。確かに気絶したとき、ふわふわと体が持ち上がり、まるで自分が飛んでいるような感覚になった事は覚えている。

(あれが死んだときの感覚なのか?)死んだ事が無いので分からないが、そのふわふわした感覚は大人になった今でもはっきりと覚えている。


(石井とは関わらないようにしよう。)そう思った。

そこで私は石井を無視し、後ろに座っている上野と極力話すよう心がけた。上野は中1の時も同じクラスの奴で、皆から「シェーン」と呼ばれていた。それは自己紹介の時、

「映画のシェーンに似ているとよく言われるので、僕の事をシェーンと呼んで下さい。」

と自分で言い、笑いが起こったことでクラスがなごみ、それから私たちは彼をシェーンと呼ぶようになっていた。


私は、席が後ろだった事もあり、シェーンと良く話すようになった。話しているうちに、すごくいい奴で話が合う奴だと分かった。私たちはすぐに仲良くなった。

それからしばらくして、授業が始まった。シェーンが休み時間に私に言ってきた。

「この前知り合いから川崎球場のロッテ戦のチケット3枚もらったんだ。誰かもう一人誘って見に行かないか?」

その当時、ロッテは川崎が本拠地であり、川崎住民として私たちは、パリーグではロッテを応援していた。

私はすぐさま

「東を誘いたいんだけどいいかな?」と聞いた。

シェーンはすぐに

「いいよ。」と言ってくれた。

私はすぐに4組に行き、東を誘った。東もすぐに行くと答えてくれた。

私はすごく嬉しかった。チケットをくれたのはシェーンであるが、正直、東と久しぶりに出かけられる事が嬉しくてしょうが無かった。


夜、3人で川崎球場に来た。家から自転車で15分くらいの距離だ。私たちはチケットを見せ、球場に入場した。自由席だったので適当に3つ並んで空いている席を見つけ、私たち3人は隣通し席に座った。席に座ってしばらくすると東が、

「ちょっとトイレ行ってくる。」と言い、席を立った。ここで止めれば良かったのだが、シェーンのアイデアでちょっとしたドッキリをしようということになった。そしてふざけ半分に、東がトイレから戻ってくる前に、私たち二人は席を15席くらい後ろの3つ空いている席に勝手に移動した。遠くから眺めていると東が戻ってきたのが見えた。東は二人がいない事にビックリしてあたりをキョロキョロ探している。私とシェーンはクスクス笑いながらネタばらしをしに「あずまー!」と叫ぼうとした瞬間、私たちと東とを直線で結んだその間に団体のお客が立ちふさがった。と、次の瞬間、団体がいなくなると、そこにいたはずの東がいなくなっていた。

「?」

「あずまー!あずまー!」

私は大声をあげて東を呼んだのだが、どこにも見当たらなくなっていた。

もう、試合どころではなかった。私は東を探すことに必死になっていた。1時間・・・いや2時間くらい探し回っただろうか・・・・試合が終わり、客が帰り始めた。私は東をとうとう見つける事ができなかった。その日、私はシェーンと二人、とんでもない事をしたと反省しながら、家路に着いた。

次の日、私は真っ先に東のところへ行った。謝ろうと思ったからだ。謝ればきっと東なら許してくれる、そう信じていた。

ところが、その考えは甘かった。

東は謝りに行った私を完全に無視していた。

私は開口一番「昨日は本当にごめん。」と言ったのだが、東は聞こえないふりをした。

私は完全にシカトされていた。

それでも私は休憩時間になるたびに4組の教室に行き、東にひたすら謝った。それでも東はずっとシカトをしていた。そんな日が2・3日続いたと思う。

私の中で何かがプッツンと切れた。

(こんなに謝ってるのに、あいつは何なんだ。こんなに了見が狭く嫌な奴だったとは思わなかった。もう面倒くさい。もういいや。)

そう思ったら急に腹が立ち、どうでも良くなり、私もまた東をシカトするようになった。


この日から私と東は絶縁状態になり、仲直りしたのはこの日から実に1年半後の中3の9月頃だった。きっかけは、私と東の共通の友人が、私と東の関係をひどく痛み、その友人の家に私が遊びに行った時、東もその友人の家にいて、その友人によって仲直りさせられたっていう感じだった。

その時、久しぶりに東と話したのだが、東もその当時の私と同じ気持ちで、私と遊べる事が本当に嬉しく、私たちは相思相愛的な感じだったのだが、私がシェーンと仲良くなり、自分をおいてどこかへ行ってしまった事が、本当に許せなかったんだと言われた。私は改めて東に謝った。

私たちは、これで本当に仲直りした。

しかし、1年半のブランクは長すぎた。クラスも違えば友達の環境も違う私たち二人は、普通に話すようにはなったが、昔のような関係にはもう戻れなかった。ただの知り合い的な存在になってしまったのである。

今思えば、あの時、どうして席を勝手に移動してしまったのか、本当に後悔している。

あれが無ければ多分私と東は、今でも連絡を取り合う親友と呼べる存在になっていたはずだ。しかし、ただの知り合い的な存在になってしまった東とは、高校に行ってからはほとんど連絡を取る事もなく、風の噂で大学へ進学し、それから大手企業に就職し、その後、結婚して子供が3人いるということだけは耳に入ってきた。しかしどれもこれも人伝えの話なので本当の事は何も知らない。


私の人生を変えてくれた東・・・今一度お礼を言いたい。本当にありがとう。

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