第12話 中学校時代①ー5(はじめての快感)
私は、吹奏楽部に入ってからはすごく平穏な日々が続いていた。小学校のあの時が嘘だったかのように何事もなく日常が過ぎて行った。特別だった事と言えば、弁論大会のクラス代表を決める際、私と東の弁論が残り、二人で弁論大会の代表者を争うことになったことぐらいだ。結果は東が代表に選ばれた。しかし、私の弁論も良かったという事で、特別枠で弁論大会の基準弁論として発表する事になった。基準弁論とは審査員が審査を行う際、私の弁論より優れているか劣っているかという事を判断する材料に使われるものだと聞かされた。したがって各学年の順位付けに非常に大きな影響力を持っているから、ある意味一番重要だと担当の持田先生に言われた(まぁー今思えばお世辞だったような気もするが、その時の私は、音楽の時もそうだったが、認めてもらえる事が何よりも嬉しかった。)。
私は、題材を「夢」にした。作曲の時もそうだったが、このころの私は、貧乏生活の中で、自分の将来を夢見る事ができず、かといって諦めたくないそんな気持ちが入り混じっていた。
書いた内容はいまでもはっきり覚えている。
『夢をつかむためには3つの心が必要である。1つ目は心掛け、2つ目は心構え、3つ目は心づもり・・・』というような内容を書いて話した。結構、みんなの心に届いたらしく、上級生から同級生まで結構な拍手と声援が送られたと記憶している。
そのあとどんな進行をして誰が優勝したのかは覚えていない。多分、自分自身の事で精一杯だったんだと思う。私立の小学校の時に結構人前で話していたので、それについては慣れていたのだが、やっぱりブランクがあったのと、ついこの前までは不良になりかけていて、中島にもろくな人生が送れないと太鼓判を押されていた自分が、今こうして拍手を浴びている事が不思議だった。
弁論大会が終わると、当時生徒会長だった吉岡先輩が私の所へやってきた。私はなにか文句を言われるんじゃないかと、ヒヤヒヤしていた。吉岡先輩は私に、
「お前、ギターやってるって本当?」
私はすぐに答えた。
「はい。始めたばかりですけど。」
吉岡先輩はしばらく考え、
「お前、文化祭で幕間にギター弾いてくれない?」
「どういうことですか?」
私は詳しく話を聞くことにした。何でも吹奏楽部のあとに演劇部の発表があるらしいのだが、演劇部のセットの転換の準備に結構時間がかかるので、セットの準備をしている間、10分~20分くらいギターを弾いてつないで欲しいとのことだった。私は先輩からの頼みなので、断る事ができず、一緒にいた東を巻き込んだ。
「東もギター弾けるので、東と一緒にやります。」と答えた。
東はびっくりして、「おい!」って言っていたが、結局私とやる羽目になった。
東と私は、その日から放課後ギターの練習を始めた。
ビートルズを中心に選曲したが、ビートルズを知らない人もいるので、邦楽を織り交ぜた。ビートルズからは、乗りのいい「デイ・トリッパー」や有名な「レット・イット・ビー」、邦楽からはその当時流行っていたアリスの「チャンピオン」や「帰らざる日々」を演奏する事にした。
歌は、東が「デイ・トリッパー」と「チャンピオン」、私が「レット・イット・ビー」と「帰らざる日々」を歌うことにした。正直、歌には自信が無かった。私は音痴だった。でも全部を東に押し付けるのも悪いので、半分ずつ歌うことにした。
来る日も来る日も毎日練習した。そしてついに文化祭当日。吹奏楽部の演奏が終わると私たちの出番になった。ちなみに私は吹奏楽部だったが、まだ入部して間もなく、何も演奏できなかったので、吹奏楽部の発表会にはこのとき参加しなかった。だからステージの幕が降りたらすぐにステージの幕の前に立つ事ができた。
私と東は練習した通り4曲を二人で歌いきった。途中、ところどころ失敗はしたが、なんとなく終わって歓声と拍手をもらった。充実した1日だった。そしてこの日を境に私はなぜか女子から告られるようになった。小学校からこの時まで全然モテた事が無かったこの私がビックリである。そしてまた、この日を境に無名だった私が、全学年に知られる存在になった。
私は学校で知らない人からよく声をかけられるようになった。
「この前のステージ良かったよ。」とか「また聞かせてな。」とか・・・
私はすごく嬉しかった。このときから私はバンドを組みたいと思うようになっていった。冬が訪れる少し前の出来事であった。
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