第9話 中学校時代①ー2(勉強への目覚め)


入学して1ヶ月くらい経った頃、学校で事件が起きた。

校内暴力・・・私が入学したS中学校は、中島が言っていたように市内で一番悪い学校だった。特に当時の中3は手がつけられず、よくテレビドラマで見る、窓ガラスを割ったり、先生を殴ったりというのが日常茶飯事だった。警察が介入して、新聞にもでかでかと掲載された事もあった。

S中学校の制服を着て街を歩いていると、他中の生徒はみんな道を空けるといった感じの中学校だった。だから、校内では先輩後輩の関係は厳しく、街角で先輩を見た時には、どんなに遠くても先輩が通るまでは頭を下げて通り過ぎるまで待っていないとダメみたいな暗黙のルールがあった。もし、それを破ると、体育館裏に連れて行かれ、ボコボコにされた。何人も顔を腫らして学校にやってくる奴がいた。

そんな学校の中でも特に柔道部は不良の溜まり場だった。がたいのいい不良が沢山いて、絶対先生より強いだろうっていう先輩がたくさんいた。小学校での私の素行も柔道部に知れ渡っており、「柔道部に入れ。」というお達しが友達伝えに舞い込んできていた。私も小学校の時から不良の道に入るんだろうなって諦めていたので、柔道部に入るつもりでいた。。

その事を東に話した。東は必死に止めてくれた。そして自分がやりたい物をやるべきだと言ってくれた。東はテニス部に入ると言っていた。

「そうだ。石原も一緒にテニス部に入ろうよ。」

と、突然誘ってきた。そして付け加えるように、

「柔道を本気でやりたいなら止めはしないけど、もしそうでなければ、本当にやりたい部活に入った方がいいよ。」

とも言ってくれた。

(俺が本当にやりたい物。それは何だろう?)そう考えると、それが柔道で無い事だけは、はっきりとわかった。かといってやりたい事があるわけでもなく、私はとりあえず、東と同じテニス部に入る事に決めた。

柔道部の連中から何か言ってくるかとヒヤヒヤしていたが、特に何のアクションもなく、私はホッとしていた。後で聞いた話だが、星山さんが中学校を卒業する時に、「石原に手を出したら承知しない。」と、当時の私の先輩たちに圧力をかけておいてくれたみたいだった。

ありがとう。星山さん・・。


話は変わるが、しばらくして中間テストが始まった。その当時、母は毎日働く事で精一杯で、勉強しろとはほとんど言わなくなっていた。私も言われない事を言い事に勉強はほとんどしなっかた。その結果・・・テストは散々な物だった。

今でこそ考えられない事かもしれないが、その当時はテストが終わると、クラス順位が1位から最下位まで教室の後ろの掲示板に張り出されていた。

私の結果はクラス40人中15位くらいだったと思う。(はっきりした順位は覚えていない。)

そして1位の名前を見た瞬間、私は驚いた。そう。1位は東だった。

(東って頭いいんだ。すげー。)

私は、すごい子と友達になったんだなって思った。東は、身長こそ低かったが、スポーツマンで可愛い顔をしていた。その上、頭もいいなんて、・・・なんてすごい奴なんだろう。

私は、そう痛感させられた。そして次の瞬間、不思議な事を思ってしまった。

(こんなすごい奴と友達になったはいいけど、バカな俺はそのうち相手にされなくなるんじゃないかな?東と友達でいるには東と同じくらい頭が良くないとダメだ。)

多分東にしてみればそんな事を考えた事など一度もなかったと思うが、その当時の私は勝手にそう思い込んでしまった。現に東に、だいぶ経ってからそう言ったら、「バカじゃないの?」と一蹴された。しかしその時の私は真剣そのものだった。


私はその日から、勉強を一生懸命するようになった。周りの子たちはみんな塾に通っていたが、貧乏で塾に通うことのできない私は、家で一人、その日学校でやった科目の復習をし、次の日、学校でやるであろう科目の予習をした。予習は教科書を読みながら、自分で一つ一つ理解し、分からないことをチェックして次の日学校の先生に聞くようにした。そうすることで、学校の授業が分かるようになり、分かるようになってくると更に楽しくなって、勉強をもっとするようになった。ビートルズを好きになったのも勉強に大きく影響していた。私は、ビートルズの曲の歌詞を暗記するくらい何回も音読した。そして分からない単語などは図書室で辞書を借り、意味を調べて覚えるといった事を繰り返した。その結果、英語は特に勉強する事もなく、分かるようになっていった。

そんな毎日を過ごし、期末テストの時期になった。テストを受けて見ると、前回の中間テストの時よりも手ごたえを感じる事ができた。そして例によって結果が貼り出された。私はなんとクラスで2位になっていた。当然東が1位だった。みんな驚いていた。私は嬉しかったことも事実であったが、それよりも東に負けた悔しさの方が先に込み上げてきた。私の中で東は、この時から、勉強面においては友達からライバルへと変わっていった。


まぁー結果を言えばこの先私は1度も東に勝つことはできなかった。東の頭の良さは半端なかった。私の完敗だ。・・・


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