第8話 中学校時代①ー1(親友との出会い)


小学校を卒業した私は、中学校入学のための準備に精を出していたが、このころの私は、中島との一件もあり、学校に対して何の期待感もなかった。

(俺は中島の言うように中学校に入学したら不良の道に進み、多分、ろくな人生ではないんだろうな。)と感じていた。それでも時は刻一刻と過ぎていき、無情にも入学式当日は静かにやってきたのである。


朝、中学校に母と行くと、クラス分け表が貼り出されていた。私は1年1組出席番号は2番だった。体育館に行き、入学式が始まり、入学式が滞りなく終了すると、私たちは教室へ誘導された。教室へ着くと出席番号順に座るように指示された。今は男女混合の出席番号になっているが、私たちの時代はまだ男尊女卑の風潮が残っており、出席番号は最初が男子の五十音順、続いて女子の五十音順という感じになっていた。私は窓側の前から2番目の席に座った。

ここで、私は運命の出会いをするのであった。

私の前の席に座っていたのは東(あずま)君という男の子だった。身長が低く、髪型はスポーツ刈りのちょっと可愛い感じの子だった。彼は気さくにも席についた途端、私の方に振り向き話しかけてきた。

「小学校は同じだったけど、クラスが違ったから1回も話した事無かったね。」

「えっ?そうだっけ・・・」

「これからよろしく。」

「こちらこそ。」

と、最初は自己紹介的な所から関係性が始まった。


しばらくは席替えも無く、このままの席で授業をするとのことで、私と東は休み時間になると、色々と話すようになっていた。

「石原、ビートルズって知ってる?」

と突然聞かれた。東はその当時、父親の影響で洋楽にハマっており、その中でも特にビートルズが好きだった。しかし、その当時、私はビートルズの事を全く知らなかった。・・・

「知ってるよ。山田隆夫とか江藤なんちゃらとかがいるグループでしょ?」

「はぁ?それは『ずーとるび』だよ!(笑)俺が言ってるのはビートルズだよ。」

東は大声で笑った。

「今度カセットテープに録音してきてあげるから聞いてみて。絶対気に入るから。」

そう言ってきた。

「ありがとう。でもごめん。俺んち貧乏でラジカセ買うお金無いから聞けないんだ。」

そう言うと東は、「まじか!」といい、しばらくして、

「俺ラジカセ2つ持っているから、古い方で良ければ、テープと一緒にあげるよ。」と言ってくれた。私は嬉しかった。私はその好意に甘える事にした。しかし、このころの私は、ある意味、人間不信に陥っていた事もあり、(どうせ口約束だから、本当にはくれないだろうな。)と、どこか期待していない自分がいたのも事実である。

ところが東は次の日、

「昨日、お母さんに聞いて、ラジカセ1台あげてもいいって許可もらったから、明日遊ぼうよ。俺んちに来なよ。それまでにビートルズのカセットも作っておくから。」

私はすぐに「うん。」と返事をした。

翌日、待ち合わせ場所で私と東は合流すると、東の家まで一緒に歩いて行った。川崎区のはずれには産業道路というのがあり、東の家は、その産業道路を渡った先にあった。かなりでかい一軒家だった。部屋に通されると、そこには名前も知らない外人のポスターが壁一面に一杯貼ってあった。その当時はアイドル全盛期で田原俊彦や松田聖子など、「かっこいい。かわいい。」系のアイドルが人気を博していた時代だったが、東は全く興味が無い様子だった。ちなみに、私もそういう物には全く興味が無かった。

東は部屋にジュースを持ってきてくれた。そして自分が好きな音楽について話し始めた。

すごく生き生きしていて、私もその話を聞いているだけで楽しくなってきた。

東は貼ってあるポスターを指さしながら、その人物についての話も始めた。

「これがビートルズでこっちはローリングストーンズ、そしてあっちがイーグルスだよ。」

良く分からない横文字がいっぱい並んで、その時は理解できなかった。が、それでも私は楽しい時間を過ごしていた。

帰る時間になると、東は約束通りラジカセとカセットテープを私にくれた。このラジカセは私の宝物となり、CDが普及するまでずっとこのラジカセを私は使い続けた。


家に帰るとすぐにカセットを聞いた。衝撃を受けた。音楽で衝撃を受けたのは後にも先にもビートルズだけだった。私は1曲目の「プリーズ・プリーズ・ミー」を聞いた瞬間から、ビートルズの虜になっていた。もちろん、東にもらった物だから好きになろう的な気持ちで最初はカセットテープを聞き始めたのだが、そんなことは関係なく、純粋にビートルズの事が好きになった。

次の日、学校に行くとすぐに東に言った。

「すごく良かった。一発で気にいったよ。本当ありがとう。」

「気にいってくれるかなって思ってたんだけど、気にいってくれて良かったよ。」

「うん。それで・・・言いにくいんだけど、他の曲も聞きたいから、暇なときでいいから、またテープにとってくれない?」

「いいよ。昨日あげたテープはビートルズの初期の頃の曲ばかりだったから、今度は中期の曲とって渡すよ。そしてそのあとは後期の曲もとって渡すよ。」

と言ってくれた。こうして私たちはビートルズ繋がりで次第に仲良くなっていった。


余談だが、私は高校生になってから、バイトをして稼いだお金でビートルズのLPレコードを全部揃えた。それは今でも私の宝物として、大切に保管している。

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