第7話 小学校時代②ー4(卒業式前の最後の事件→小学校卒業)

補導された次の日、私は母に連れられ、朝、小学校に来ていた。幸い、私が警察に補導されたことは、学校には知れ渡っていなかった。


私はクラスメートの何人かには会いたかったが、中島には会いたくはなかった。しかし、それは叶わぬ願い・・・私の担任は中島であり、朝、私と母は校長室に呼ばれ、そこで校長先生と中島に、ちゃんと学校に来るように言われた。そして、中島は母に結構きつい口調でこう言った。

「お母さん、重雄君は学校に来なくなる前の日に、お説教している最中、何も言わず帰ってしまったんですよ。いくら母子家庭だからって、甘やかされては困ります。しっかり教育して下さい。」

母はただただ、平謝りしていた。

「本当にすみませんでした。以後、このような事が無いように、言って聞かせますので・・・」

母は、母子家庭という負い目もあってか、先生たちに言われるがまま、謝っていた。


それからすぐに、母は仕事があるので、頭を下げながら校長室を出て行った。

私は、校長先生に、

「ちゃんと学校に来るんですよ。」と言われ、続けて中島に、

「先生の指導力の見せどころですよ。頼みます。中島先生。」

そう言った。

「校長先生。大丈夫です。任せておいて下さい。」

そういうと私と中島は校長室を後にした。

教室に戻る最中、中島は私にこう言ってきた。

「今度、不登校になったらただじゃおかないからな。ちゃんと学校に来いよ。」

結構きつい口調だった。


私が教室につくと、クラスメートはみんなびっくりした様子だった。1時間目の授業が終わり、例の花瓶を割った当事者の男子が私の所に来た。

「石原・・・、あの時はごめん。あのあとすぐに、怒られるのを覚悟で中島先生の所に本当の事を言いに行ったんだけど、もう、石原が帰っちゃった後で、中島先生が『もういいよ。』って言ってくれたから、俺たちもその日は普通に帰ったんだ。だけど次の日から石原が学校に来なくなったから、ずっと責任を感じていた。本当にごめん。」

二人は本当に申し訳なさそうな顔で、真剣に謝ってきたので、二人の誠意がヒシヒシと伝わってきた。


一方、中島はどうだろうか?この二人から本当の事を聞いていたにも関わらず、私に謝罪の一言もない。私の事を花瓶を割った犯人として殴る蹴るの暴行をしたにもかかわらず、その事について、さっきの校長室での話し合いの時、何一つ触れる事はしなかった。私ははらわたが煮えくり返る思いで、(いつか大人になったら、こいつだけは絶対ぶっ飛ばす。)そう強く決意した。


それから、何日か経つと、学校は卒業式に向けて加速し始めた。私は、早くこの学校を卒業したかった。早く、中島と別れたかった。だから卒業式が待ち遠しくてしょうが無かった。そんな中、卒業式の前に最後の事件がその日起きた。

それは、卒業アルバムが配られた日、私は自分の目を疑う光景を目の当たりにした。私は学校に来ていなかったので、卒業アルバムの文集は書いていないし、ましてや、文集を書くこと自体、知らなかった。しかし、その卒業アルバムの文集のコーナーに何故か私の名前で、作文が掲載されていた。内容を読んでみる。「僕は調理師になりたいです。・・」確かこんな内容が書かれていたように記憶している。卒業アルバムをもらった日に読んだだけで、そのあとすぐに捨ててしまったので、はっきりした事は覚えていない。ただ、私以外の誰かが、私の名前で作文を書いた事は事実だった。私は、許せない気持ちで、犯人探しを始めた。私は、クラス中の人に聞きまわった。答えはすぐに分かった。やっぱり中島だった。

中島は自分のクラスから不登校者がでて、卒業アルバムに作文が載っていないことをひどく落胆していたらしい。そこでクラスの男子で私の字に近い男子を使って、中島が書いた文章を、私の名前で書くように指示していた。その子は、いけない事とは知りながらも、中島に命令されて断れず、仕方なく書いてしまったとのことだった。

こんな横暴を許していいのか・・・子供心に「なにか仕返しを。」と考えていたが、一生懸命働いている母に迷惑になるかもという思いで、悔しさを自分の胸にしまいこみ、あと2週間・・・あと2週間で卒業、と自分に言い聞かせながら、私は我慢していた。


そして、ついに卒業式がやってきた。私の胸は躍っていた。待ちに待った卒業式。本当に嬉しかった。

卒業式は滞りなく終了し、女子は泣いている子がほとんどだったが、男子はほとんどが泣いていなかった。

教室に戻ってくると、一人一人、先生に呼ばれ、教壇まで行き、先生から一言二言もらうという儀式が始まった。どうせ、私には何も言ってこないだろうと思っていた時、中島の口から私の名前が呼ばれた。

「石原。前へ。」  

私は教壇に近づいた。中島は低いトーンで話始めた。

「お前とは色々あったが、これだけは覚えておけ。お前はこのままいったら、中学校で間違いなく不良になる。お前が入学するS中学校は市内で一番の不良学校だ。お前は、不良になり、勉強もできなく、高校にも行けず、最後にはヤクザ屋さんに就職するのがお前の人生だ。精々頑張るんだな!」

この言葉をどう受け止めればいいのだろうか。今、こうしてあの時の言葉を文字におこしてみると、エールのような気もしなくはないが、その当時の私は、(いつか必ずこいつにお礼参りしてやる)と強く思っていた。・・・

私は中島に強い憤りを感じながら小学校を卒業したのである。


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