第6話 小学校時代②ー3(不良の道へ・・そして警察に補導)


学校に行かなくなって1週間が過ぎた。

母は毎日朝早くから夜遅くまでパートをかけ持ちし、1日中働いていた。朝は4時起きで、5時から7時まで家の近くのおにぎり屋さんで働き、そのあと8時から16時まで水江田町という町にある造船所の中の食堂で働く、そしてそれが終わったら近くの管理会社に勤務しビルの清掃をする仕事を21時ころまで行い、家に帰ってくるのは毎日夜22時ころだった。そんな訳で私の変化に気づくはずもなく、また妹はまだ小さいからと叔母の家にしばらく預かってもらっていたので、日中私が家にいても誰にも気づかれずに済んだ。だから、私が不登校になっても普通に生活する事ができていたのである。もちろん、冷蔵庫の中の食材を昼間食べてしまうと気付かれるので、昼は抜きというとてもひもじい思いをしていた。


一方、中島は中島で、私が学校に行かなくなっても、家に一切の連絡をよこさず、沈黙状態を続けていた。でも、私にとってはそれは好都合だった。沈黙を続けてくれていたおかげで、私が学校に行っていないことが母にバレずに済んでいたのだから。・・・

女手一つで頑張っている母に心配はかけたくはなかった。


私は、家にいて暇なときは、街をプラプラと歩きもした。しかし、やはり平日の昼間、小学生がプラプラ街を歩いていれば目立ってしょうがない。私はドキドキしながら、隠れるように暇つぶしをしていた。

そんな時、一人の男の人が私に声をかけてきた。私はドキッとしながらその人の顔を見た。制服を着ていたので中学生か高校生ぽかった。

「お前、ここで何してんの?」

「学校に行きたくないんです。」

「何があったんだ?話してみな。」

私は今までのいきさつを話した。

するとその人は、すぐに、

「中島か・・・俺もあいつには結構いびられたからな。」

「? 知ってるんですか?」

「知ってるも何も、小6の時の担任だよ。」

そういうと、その人は自己紹介をしてくれた。

その人は星山(ほしやま)さんといって私の3つ年上の中学3年生、S中学校に通っていた。

私たちは中島の話をきっかけに意気投合した。


その日から私たちはつるんで遊ぶようになっていた。結構悪さもした。しかし、一応釈明しておくが、万引きや窃盗などはしたことはない。私たちがした悪さとはお酒を飲んだり、たばこを吸ったり、他校の生徒と喧嘩したり・・・あと星山さんの運転でバイクでニケツしたりもした。(星山さんは中学生だったから多分無免許だったと思う。ちなみにバイクは星山さんちの物で、お酒やたばこも星山さんちにあるものを拝借していた。これも立派な窃盗か?)・・・星山さんちもまた母子家庭でお母さんはスナックを経営していてほとんど家には帰ってこないとの事だった。だから、星山さんの家か私の家が二人のたまり場になっていた。(ただ、9割がた、星山さんの家だったが・・・)

星山さんは私にとってはすごくいい人だった。川崎に来てからの初めての友達・・・そんな気がしていた。


その日は、なんとなく家にいるのがつまらなくなり、私たちは街をブラつくことにした。忘れもしない2月の下旬。とても寒い日の昼下がり。

私と星山さんはたばこを吸いながら街をブラついていた。すると不意に呼び止められ、その方向を眺めると警察官がいた。私たちは走って逃げたが、敢え無く警察官に捕まり、警察署まで連れて行かれた。そして、すぐさま家に連絡され、私の母と星山さんの両親が慌てて警察署にやってきた。(星山さんちは母子家庭だと聞かされていたが、実は母親には彼氏がいて一緒に来たらしい。)

私の母はそこで初めて私が学校に行っていない事やたばこを吸っていた事などを知らされた。

それから、警察官と私の母、星山さんのご両親を交えて、かなり長い間、事情聴取とお説教をされた。

その中で、私たちは、もう二人で遊ばない。たばこをもう吸わない。お酒を飲まない。他校の生徒と喧嘩をしない。などの反省文と誓約書を書かされた。

「これを守らなかったら、児童相談所に通報して、それなりの施設に入ってもらうことになるから気をつけるように。」と、脅迫にも似た言葉で念を押された。

私たちは「必ず守ります。」と誓い、それから暫くして解放された。私たちはもう一緒に遊べないんだと思うと少し悲しく、警察署を出るまでの間、小声でしゃべった。

「施設に入るのは嫌だからな・・あの誓約書は守らないとやべーだろうな・・・」

「はい。僕も施設に入るのは嫌です。」

「それじゃーこれから俺たちはしばらく合わないようにしよう。」

「・・・はい。」

そう言うとひと呼吸おいて星山さんが言った。

「シゲが中学に入学する時は俺はもう卒業しているから、今度会えるのは、二人が大人になってからだな。」

「はい。」

「大人になったら必ずまた会おうな。」

「はい。」

「それじゃーまたな。」

そういうと、星山さんは両親に連れられ、警察署を後にした。私は、二人の再開を信じ、星山さんのうしろ姿を見送っていた。しかし、私が星山さんを見たのはこれが最後だった。後から聞いた話だが、星山さんは16歳の時、バイクに乗っていて、単独で事故を起こし、死んでしまったらしい。その事実を知ったのは私が高校生になってからである。

そんな未来が待っていることなど、この時の私には想像できるはずもなく、私は大人になった自分と星山さんの姿を想像していた。そして、あの頃はバカなことやってたな・・・と笑い話に花を咲かせ、堂々とお酒を飲み交わす仲になるものだと疑いもしなかった。

こんな事ならもっと色々と話しておけばよかった。

「後悔先に立たず」とはよく言った物だ。

人間は後悔しないためにも、今を大切に生きる事が大切なんだと改めて感じさせてくれる瞬間だった。

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