第4話 小学校時代②ー1(夜逃げ)
父が亡くなって、葬儀告別式も滞りなく終了した。
会社は正式に義雄兄ちゃんが継ぐことになった。父が死んだというのに、世間という波は一向に待ってはくれない。私たちも例外なく、だんだん日常を取り戻していった。
しかし、日常を取り戻せない人が一人いた。母だ。
母は、飲みなれないお酒を毎晩飲むようになり、吸った事もない煙草をふかし、毎晩何か遠くを見ている感じだった。私に対しても「勉強しなさい」とは言わなくなり、韓国語の学校にも通わなくなっていた。私には時間ができたのである。今思えば、もう少し母の気持ちに寄り添ってあげれば良かったなと思うが、その当時の私は、自由な時間ができたことへの喜びが大きく、連日、友達と遊びまわっていた。いままで体験した事のない高揚感。野球やサッカーをしたり、ハトを飼っている友達にハトを触らせてもらったり、・・・そうそう、初めて友達と銭湯にもいった。友達たちと下半身を見せっこして「お前のでかい!」とか馬鹿な話をして笑ったりすることがすごく嬉しかった。不謹慎だが、なんとなく私の小学校時代の思い出が、父が死んだあとから動き出したのである。
そんな日々を過ごしていた夏休みのある日。・・・・
その日は町内のお祭りがあり、私は初めてお神輿を担いだ。お神輿といっても、小学5・6年生で、町内を1周するという簡単なものだったが、初めて経験する私にとっては過酷極まりないものだった。しかも途中から大雨に降られ、ビショビショになりながら練り歩いた。お神輿を担ぎ終わった後、疲れはしているものの、達成感は半端なくあった。私は快感に酔いしれていた。雨で全員ビショビショだったので、みんなでそのまま銭湯に行き、お風呂に入った。すごく充実した一日だった。
銭湯から帰ってくると私は、普段通りテレビを見て過ごしていた。
すると母から突然告げられた。
「今日、家を出ていくよ。知り合いに荷物を運んでくれるようお願いしたから、お前も出来る限り少ない荷物で必要な物をまとめて家を出る準備をして。」
私はびっくりした。
「学校は?友達にあいさつもしてないよ。」
「ごめんね。でも、今日しかチャンスは無いんだ。・・・」
そう、この日はお祭りという事もあり、大人の兄弟たちはみんな、宴会に出払っていた。
家に誰もいなくなるこの日がチャンス、ということは理解した。しかし、だからと言って、今まで仲良くしていた友達に挨拶もなしに、引越しするなんて私は嫌だった。しかし、そんな私を母は強引にかつ強制的に言い聞かせ、私は納得せざるを得なかった。
そして、その日の夜中・・・母と私と妹の三人は少量の荷物を母の知り合いの車に乗せて、夜逃げ同然に、住み慣れた家を捨てた。
車で2時間くらい経っただろうか。・・・辿り着いた先は、川崎にいる母の妹(私の叔母)の家だった。
叔母は結婚しており、旦那と子供二人と住んでいた。決して広い家では無かったが、新しい家が決まるまで、しばらく居候する事になった。二人の子供は私の従兄にあたるのだが、初めて見る従兄に戸惑いながらも年齢が近いという事もあり、私たちはすぐに打ち解け始めた。私は二人の事を
色々な事をして遊んだが、とくに話す必要もないので、また機会があれば話したい。
一方母は、新しいアパートを探すのに苦労していた。今でこそ珍しくもないが、その当時は母子家庭と言うだけで、アパートを貸してくれる所は少なかった。でも母は、2学期が始まる前に住居を決め、小学校の転校手続きをどうしても2学期が始まる前までに済ませたいという考えがあったみたいだ。そして必死に探した結果、母子家庭でもオッケーというアパートを見つけてきた。
そのアパートは6畳と4畳半の二間しかなく台所は1畳、お風呂なし共同トイレというものだった。しかし、欲は言っていられないと、すぐに契約し、私たち三人はそこで生活するようになった。
母は新生活が始まる時、私と妹に言って聞かせた。
「これからは、今までみたいに贅沢は出来ないから、節約しながら、三人で頑張って行きましょう。」
まだ5歳になったばかりの妹は元気よく「うん。」と答えていたが、私は渋々頷くしかなかった。
そしてここから、私の極貧生活が始まった。まず食事が貧相になった。ご飯1膳とおかずが1品、味噌汁はあるかないかの瀬戸際な状態。お風呂は無かったから、2・3日おきに一回、銭湯に行く。でも髪の毛はすぐにかゆくなるから、台所で冷たい水で洗う。(もちろん冬でも。)そして極めつけは、着ている服は誰かからもらってきたお下がり、しかも私が知らない誰か・・・母の知り合い?・・・みたいな感じの生活が何年も続いた。とにかく、今までの私からは想像できないような極貧生活が待っていたのである。・・・
だがとりあえず、私たちは、2学期前までに新居確定という母の目標をクリアーしたのである。
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