第10話 キスをする
昼休みに私の休息を奪うあいつ。
「樹里! 例の安田君がお呼びだよ!!」
果歩の声に教室の入口を見る。教室の入口に立ってこっち見てるよ。あいつめ!!
「あ、ああ。うん」
「樹里! 頑張るんだよ」
果歩多分、安田拓海が新しい同居人だって知ったら、手を引くように言うだろう。類の時のことを知っているから。何もないただの転校生だって思っているから、応援しているんだよね。
席を立ち、拓海の方へ行く。
「なに?」
「ちょっと」
と、またもや拓海に腕を取られる私。
校庭の涼しい木陰に連れて行かれる。嫌な予感がする。
「うっとおしい!」
「は?」
人のこと連れてきといて、いきなりうっとおしいはないでしょ? しかも私、何にもしてないし。いや、まあ、朝、グダグダと文句は言ったんだけどね。そうだよね、朝起こしに女の子の部屋に勝手に入るのもなんだよね。私が悪かったよ。確かに。でも、いきなりこれはないよ。
「ジロジロ見られて嫌だ。樹里、ここは我慢して手を打て。昨日のお礼だと思って」
「え? え? 何の話なのよ?」
朝の件じゃないの? ジロジロって……女子か、我慢してって……女子よけ?
「付き合うことにしよう。な、それなら話は簡単だよ。家に一緒に入るとことか見られても安心だろ? わざと朝も時間ずらさないでも登校できるし」
「え? いや、そうだけど……」
そうだけど! 私の恋はどうなるんだ!?
「なあ!」
「でも、やっと類のこと吹っ切れたんだから……」
そうは言っても、恋するあても全くないんだけど。なにせもう三年生になっている。ほとんどの男子生徒のことは、名前は知らなくても顔ぐらいは知っている。今までトキメキもドキドキもなかった。だからこそ果歩は、拓海を勧めてるんだろうけど。
「いきなり好きな奴でもできたの?」
「いないけど」
「じゃあ、できるまででいいじゃない? その頃にはおさまってるだろうし。この騒ぎ」
確かにみんなも私と同じようにもう男子生徒をほとんど知ってるから、トキメキもドキドキもなかったのか、あっても終わってるからか、誰かに取られちゃったか、目新しい拓海に反応してるんだろう。少し時間をおけば落ち着くんだろうけど……女子よけに使われるってなんだか……あ! この為だったのか!? 昨日の事は。類と私の事は拓海には一切関係ない話だし。
「最初からそのつもりでやったの!?」
「違うかなー?」
なんで否定しといて疑問なんだよ。
「……」
「いいじゃない。好きな奴ができるまでだって」
……正直言って、すぐにそういう人ができるとは思えないし。というか昨日の今日だし。
「じゃあ決まり! な!」
「う……ん。わかった」
同居がバレるよりいいか。って!! 拓海はさらりと私にキスをした。
「なに? なにしてるの?」
「だって、よりわかりやすい方がいいだろ?」
よく見れば遠巻きに見られてるよ。今のキスは、周りの見てる人にアピールしてたってことか。私達、付き合いましたって。それよりも、アピールで人にキスをするな!
「ひ、ひどい!」
「はじめてじゃないんだろ?」
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