第3話 懺悔

私は小さなカソリック教会で神父をしています。

偏に神父と言ってもどんな仕事があるか解らないと思います。


日々聖書の教えを広めるミサを開き、洗礼を行ったりしています。

また信者からの相談や罪を聞くこともあります。


今日はある男性の告解をお話しようと思います。


その男性は酷く疲れた様子で教会のドアを開けました。

初めて訪れる方で名前は仮に山田さんとしましょう。


山田さんのスーツ姿で僅かに白髪が見える初老の方で身なりも小奇麗でありました。


「初めての方ですね、今日はどういったご用件で訪れになったのですか?」


「話を聞いて欲しいのです。私は嘘を沢山つきました。

 誰かに許して欲しいのです」


「分かりましたでは、あちらの懺悔室で神に真実をお伝えください。」


山田さんは忙しなく頷くき辺りを見回した後、私の後に続き教会の隅にある懺悔室に入られました。



「では、神に誓い嘘や大げさな表現をせず告解なさい。

 神は全てに措いて寛容です」


「私は教会に来る事が初めてです。きちんと懺悔できるか分かりませんが

 許しを得たいのです」


「続けなさい」


「私は嘘を付きました、今でも生活をするに措いて嘘を付き続けています。

 初めは些細な嘘でした。

 その嘘はだんだん私を追い詰めて行き、今では何が本当なのかさえ解らなくなっています。

 私は、中学を卒業後夜間学校に通いました。しかし夜間学校で勉強をするよりも

 仕事の方が楽しくなり次第に学校には通わなくなり中退をしたのです。


 ですが、転職するにあたり私は高校卒と嘘付きました。


 高校卒であるのと高校中退では就職先の印象が異なるからです。

 次に転職する頃には私は大学卒であるとまた嘘を付いたのです。


 その頃から私は日常のどうとゆう事も無い事から、ばれて仕舞えば私や同僚に多大

 な迷惑を掛ける様な事まで。


 それでも、私は嘘を付く事が止めれませんでした。

 そればかりか私は結婚するにあたり恋人にも、恋人の親にも嘘を付き続けました。

 それは、私が身寄りの無い身である事をいい事に嘘の自分の家族をでっち上げ恋人

 の両親に同情を買いそのまま結婚してしまったのです。


 やがて子供が出来ましたが子供にも私は大学卒であるという嘘を付き勉強を教え

 たりしていました。

 子供の勉強が難しくなる頃には、私自身が子供の勉強の進み具合に併せて理解

 出来るまで勉強しました。

 おかげで妻にも子供にもばれていない思います。


 ですが自宅に戻ると妻に嘘を付いている後ろめたさから会話が思うように出来

 なくなりました。


 しかし私の嘘はまだ止まりませんでした、高校には推薦で入学した。

 以前は某有名会社で働いてた。

 そんな嘘を付いている私には友達が作れませんでした。

 友達を作ると自分の素性がばれてしまう可能性があると思っていたのです。


 それでも寂しいと思う事が多くまた何処かのコミュニティに入っては嘘を付き

 離れ行きます。


 私は人付き合いは悪い方では無いのですが、また嘘を付いてしまいます。

 大学卒であることや、人の羨むような仕事をしているとか、小さな事から大きな

 事まで全部嘘で固めていました。

 そうして親しくなる頃には私から友人になるかもしれない人達を遠ざけてきました。


 色んなコミュニティを訪れてはまた同じ事を繰り返す。

 ですが今更嘘を止め事は出来ません。


 正直に今迄の嘘を告白しようものならば

 きっと妻は軽蔑し、会社は解雇されるでしょう。

 

 嘘のお陰で私は公の場所で名乗ることが出来ません。

 嘘のお陰で私は公の場所で顔を出すことが出来ません。


 出せば何れ嘘ばかりを付いて来た人間と判ります。


 誠実に生きたかった。

 

 嘘を付かない人生を歩みたかった。


 何もかもを捨てて誰も知らない場所で一からやり直すには私は歳を取りすぎました。

 残りの人生を妻無しでは生きて行けるとは到底思えません。


 私は今後もこれまでと変わらず嘘を付き続けるでしょう。


 神様は私を赦してくれますか?」


山田さんの声は掠れていました。

鼻をすする様な音も聞こえます。


「赦します」


息を呑むような音の後山田さんは’ありがとうございます’と言い残し懺悔室を出て行かれました。

私は今後、山田さんがどの様に暮らしていくかを相談しようと思い声を掛けましたが山田さんは

’嘘も突き通せば、、、’と教会を出て行かれました。



その後、山田さんは教会には現れていません。



あの時山田さんは’嘘も突き通せば本当になる’と言いたかったのでしょう。

ですが’嘘は何時まで経っても嘘でしかない’事に気が付いて欲しいと思いました。



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この神父はピンクサロンでズボンを下ろしたままこの話をしましたとさ。

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