第2話 屑

何故人は弱い者、力の無い者を虐めるのでしょうか。


短いです。


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無くなってから分かる大切な物は色々ある。


友人、恋人、そして家族


俺は最も大切であったはずの家族を無くした。


何が駄目だったのかは全部分かっている。

俺の暴力しかない。


生暖かい物で濡れる左手首を持ち上げ今迄の妻との生活を考える。


初めて妻を殴ったのは何時だったか。



些細な事だったと思う。


それ以来、事ある毎に妻を殴った。


酒を飲むと色んな不満が湧き上がる


話し方が気に食わない。

人の話を聞かない。

セックスをしない。


殴った後はお決まりの文句を言う


「愛している」


そして


「殴るつもりは無かった、許してほしい」


時には泣きながら謝る事もあった。

謝る俺を妻は何時も許してくれた。


だが妻はもう居ない。


仕事から帰宅するとリビングのコルクボードには一枚の紙切れが留めてあった。


「もう無理、私はもう若くない。これ以上あなたに殴られながら生活を送ることは出来ません。

 また連絡します。」


たったそれだけの文章で今までの生活が無くなった。


最初のうちは’どうせすぐに帰って来るに決まっている’と思っていた。


翌日、普段通り会社に向い、普段では絶対に無いはずの定時での帰宅。


マンションに戻ると階段を駆け上がった。

エレベーターなど待っていられない。


久しぶりの定時での帰宅だ、妻は喜んでくれるはず。


外食も良いかもしれない。


いや、まずは心の底から謝ろう。


弾む息のままドアを開けた。即座に人気が無いのが判った。


その日から7日後に内容証明郵便が届く。


直接な連絡のやり取りは弁護事務所を通して行う。

本人からの連絡は一切しない。

実家や友人への連絡は暴力行為と捉え、是を禁止する。

後日、離婚調停を行う。


そんな感じの内容だったと思うがはっきりと覚えていない。


この時初めて頭の中が真っ白になり、頭痛に目が眩んだ。


もうお終いだ。


アイツニ裏切られた


そうアイツは裏切ったんだ


そうだ男だ、他に男が出来たんだ。


だから俺とのセックスを拒んだ。


だから俺との会話がなかった。


だから、だから、だからだからだからだから


もう終わりだ、会社に自分の親に友人になんて言えば良い?

駄目だ、妻に逃げられた男に今後の出世などありえない。







もう死ぬしかない。







目に付くものを投げ付け、リビングの棚を倒し

テレビを蹴り上げる。


破砕音の中、笑いが込み上がる。


もうお終いなら、何もかも壊してしまえ


そんな思いのまま部屋を破壊していく。


壁を蹴り穴を開ける


窓ガラスは全て割る


思い出の写真は灰皿で燃やす


ノートPCは金槌で叩き壊す


口の端からは涎が流れ大声を上げて暴れまわった。


リビングの上にある包丁に目が止まる。


俺は駆け寄り、勢いをそのままに左手首を切り付けた。

途端に左腕が重くなり電気に触れた様な強い痺れを感じる。


手首の中は意外と綺麗であった。


まだ何とか動く手首を曲げるとと面白いように血が吹き出る。


その血で顔を拭き、壁に床に撒き散らした。


この出血量なら長くは持たないと思う。

ならばこの血でメッセージを残そう。


一言だけでいい





”他の男とのSEXは気持ちよかったか?”





傷口に指を入れ、指で壁に書いた。


頭にモヤが掛かり壁を背にそのまま座り込んだ。




これが俺の死ぬ理由と思うと、もうどうでも良かった。



頭が痺れて視界がぼやけて来た。



ああ死ぬんだ




そっか




ただただ





もう一度妻を抱きたかったとだけ思った。



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屑は死んでも屑ですね。

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