S3-18「ドーモ」

「御相手、願いましょうか」

 糸田の体を緑色のオーラが包んだかと思うと、それは彼の右手へと収束し形を変化させた。

「なんだそりゃ、? 忍者みてぇな奴だな」

 糸田の手中に収まったそれを見て奥人は怪訝な声を上げた。

「お、御目が高いですね。その通り、実はボク

「…………」

「…………」


「「なにぃぃぃぃぃ!?」」


 一瞬の静寂。機器の微かなモーター音すら耳に届くほどの無音の後、場を埋め尽くしたのは奥人と空の驚愕の声だった。

「忍者ってあれだよな! 黒装束で屋敷忍び込んだり暗殺したりするあれだよな!? 手裏剣スバババ、クナイずばぁーんで!」

したりしたり詠んだりするあれだよね!?」

「まあ、大体あってます。……後者のアメリカンスタイルの方は専門外ですけど」

 予想外の食い付きに自分から言い出したにも関わらず引きつった顔でたじろぐ。

「よーっしゃ! じゃあ俺から相手させてもらうぜ!」

 糸田の言葉を聞き、意気揚々と袖捲りをしながら肩を回す奥人。

「えー! ちょっとアタシのが先でしょ!」

 その後ろから服を引っ掴み、空が待ったをかけた。

「えぇ! いいじゃないすか姐さん! 怪我してるんだし座っててくださいよ!」

「いーやいや! キミこそ丸腰じゃん! アタシに任せてよ!」

 やいのやいのと騒ぎ立てる二人。終いには大きな音頭でじゃんけんまで始めてしまった。

「ぃやったー! アタシの勝ちぃ!」

「ちくしょおぉぉぉ!」

 どうやら空の勝ちで決まったようである。それを余裕ぶった笑顔で見つめていた糸田だったが、悲しきかな困惑、と言うより呆れは隠しきれていない。

「えーと、自分から言っておいてなんですけど、めちゃくちゃスムーズに戦う流れになってますね。大体こういう場合いくつか質問が飛んでくるもんなんですけど……」

「質問?」

「いえ、ほら何で自分たちを狙うんだーとか」

「忍者だからでしょ?」

「お前何者だーとか」

「自分でさっき忍者つってただろ」

「……何が目的だーとか」

「え、あるの? 逆に聞くけど」

「…………」

 何言ってるんだお前、と続きそうな言いぶりで答える二人と対峙する糸田の表情は依然笑顔ではあったが、話が進むにつれてクナイを持つ手は力なく垂れ下がっていった。

 この時に限っては後ろから眺めていたほうがより彼の心情を理解しやすかっただろう。

「まあ……まあ、いいでしょう。無いなら無いでわざわざ言う必要もありませんし」

 狂った調子を整える為か軽く咳払いをすると、糸田は構えを取る。

「まずはアタシからだよ! ドーモ、イトダ=サン。クウチャンデス」

「……ドーモ。そんなに一対一に拘らなくても、別に二人で一緒にかかってきたって構わないんですよ?」




「どうせ同じ事なんですから」

 瞬間空の体は後方へ吹き飛ばされた。

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