S3-16「救援要請」
「はぁ……はぁ、ちょっと! ちょっと待って!」
息を切らしながらフラフラと結羽は立ち止まった。膝に手をついて肩で息をするも回復には時間がかかりそうだ。
「おい大丈夫か? 急がないとあいつらまた追ってくるかもしれないぞ?」
「……なーんで、お兄ちゃんそんな平気なのよ」
視線の先には高音をいわゆるお姫様抱っこの状態で抱えたまま、息ひとつ切らしていない奥人がいる。
「鍛え方が違うんだよ鍛え方が。ちなみに鈴江さんはもっとすげぇからな」
「聞いてないし、なにそれこわ」
思わず顔をひきつらせる。
この兄の言うことだからどこまで本気でとらえていいのか分からないが、少なくとも鈴江に対して喧嘩を売るのはさすがに遠慮するとしよう。
「……そこに、そこに誰かいるんですか?」
「ん?」
「え?」
そんなやりとりをしていると兄妹以外の第三者の声が何処からか聞こえてきた。
声のした方を見ると物陰からのそのそと一人の少年が出てきた。少年は細身でいかにも人畜無害そうな人相の人物だった。
「あなたたち、生きてる人ですよね? ゾンビに襲われて今まで隠れてたんです! 助けてください!」
すがり付くように二人のもとへ少年は近づいて行く。
「おいおいおい落ち着けって! ……とりあえず名前は!」
その様子に戸惑いつつも、先を急ぐ必要がある奥人は少年を制す。
「名前ですか? 名前は
「
「えっ、あー……ははは、たしかによく言われます。……って、そうじゃなくて!」
このままお互い談笑でも始まってしまいそうか、というところで少年、糸田はハッと我に帰った。
「おっとそうだった! でも悪ぃけど今俺手塞がってるから、ついてくるのは自分で頼むぞ」
「大丈夫です! ありがとうございます!」
年不相応と言ってもいいかのような屈託のない笑みで糸田は答えた。
「ところで、お兄ちゃんこれさっきから行く宛あんの? ずっと走ってるけど」
「あるかないかで言われたら全くないぞ!」
「なんで一瞬ゼロじゃない的な空気出したよ?」
兄が妹に叱咤されているとその横からおずおずといったように糸田が手を上げていた。
「えーと、それでしたら向こうの方に従業員用の救護室があるので、そちらへ向かったからどうかと……」
「なるほど! おっし、じゃあそれだ! 行くぞ、結羽!」
「勝手に先々行くな! ちょっと、あんたも前案内してよ! 放っといたら勝手にどこ行くかわかんないんだけど!?」
聞くや否や軽快な足取りで駆け出す奥人を慌てて追いかける結羽。それに促されて苦笑いの糸田は救護室の場所へと二人を案内し始めた。その流れはあまりにもスムーズでありすぎた事を結羽は気づくことができなかった。
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