S3-14「尖兵」
「そうはいかねぇな」
どこからともなく現れた声は、暗がりのなかをゆっくりと近づくとゾンビ達の山を挟んだ場所でわざとらしく制止した。
「……なんだお前は」
フードを深々と被り見るからに怪しい男に、武器を握ったまま鈴江が相対する。
「ハッ! さーてね!」
仰々しく手を広げて男は言うと、男の体から白い魔力が展開し全身を包み込んだ。
「ほーらほーら! 朝デスヨー!!」
男が片腕を横なぎに払うと床に付していたゾンビたちの体を男の魔力が包みこんだ。
するとゾンビたちはまるで何もなかったかのように再び立ち上がった。
「――!? おい! 奥人っ!」
「え! は、はい!」
目の前の相手が明らかな敵意を持つことを感じ取った瞬間、鈴江は声を張り上げた。
「そいつら連れて今すぐここから逃げろ!」
「え!? でもそれじゃあ鈴江さんは……」
「私のことはいいから早くしろ! そいつら安全な所へ避難させられたら一つだけ
「――っ! わかりました! 行くぞ、結羽!」
「え! ちょ、マジで置いてくの!? てか待ってよ!」
鈴江に促されて、高音を抱えたままとは思えない速度で奥人は駆け出した。
ワンテンポ遅れてオロオロと奥人と鈴江を交互に見やった後、意を決したように結羽もその後に続いた。
「オイオイオイ、よかったのか? お仲間たち逃がしちまって」
「その言葉そっくりそのまま返させてもらおうか? 随分余裕だな」
ゾンビ達の中から一歩出て男は薄ら笑いを浮かべながら煽り立てる。
鈴江は桜花を構えたまま皮肉を込めて返す。なるべく長く、奥人達がこの場から離れる時間を稼ぐために言の葉を繋げる。
「まーあんな連中、後からいくらでも始末できそうだしな」
「…………」
余裕が過ぎる様子に引っ掛かりを感じながらも、ひとまずこいつはもう向こうに意識は向いていないようだ。
「もう一度聞く、お前は一体何者だ? 幽霊……てわけじゃ無さそうだ」
「ああその通り、俺に足はあるか? あるな。体は? バッチリ触れられる。つまり、俺は生きた人間だ」
街中で見かけたら酔っぱらいか怪しい薬に手を出しているのかと疑いたくなるような大振り手振りで男は声を高らかに上げる。
「今度はこっちの番だ。
「上? プラントだと?」
相手側で自己完結する言葉の羅列に怪訝な顔をする鈴江をみて、男は笑みを崩さぬまま話を続ける。
「
「なに!?」
その名を聞いた瞬間顔が強張る。ハッとして取り繕うも既に遅かった。
「どうやら図星みたいだな。……まあ、俺も会ったことはねーけどな。糸田の奴は何か知ってるみてーだが」
鈴江の反応を見て得意気に男は話す。が、そのある部分に鈴江は表情を変えた。
「――っ! しまった! まさか
慌てて奥人達の向かった方向へ振り向くが、もう既に姿はおろか、足音すら聞こえなくなってしまっていた。
「おっと? ちょいと話が過ぎたみてーだな」
男はそういうとパチンっと指を鳴らす。するとさっきまで立ち上がってからピクリとも動かなかったゾンビ達が一斉に
「コンティニュー、もう一戦と行こうじゃねぇか!」
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