S3-13「いついつでやる?」
『かごめかごめ かごのなかのとりは いついつでやる よあけのばんに つるとかめがすべった うしろのしょうめんだあれ?』
真っ暗な中でどこからか子供の舌ったらずな歌が聞こえる。
ここはどこだろう? なんで私、こんなところに……
『かごのなかのとりは いついつでやる~♪』
声が近づいてくる。どこからだろう。
まるでドームの真ん中にいるみたいに全方向から反響して聞こえてくる声。しかし、それは私の意識がはっきりとしてくるにつれ、一本の歌声へと収束していく。
『うしろのしょうめんだあれ?』
「――っ!」
驚いた。いつの間にか見知らぬ少女が私の後ろに立っていたのだ。
「だ~れだ?」
「なっ!?」
少女の姿が瞬きよりも速く別のものに変わる。これは……私?
「ねえ、もうこんなところより……はやく、
「いやぁぁぁぁ!」
「――っ!」
耳元の悲鳴で高音はハッとする。そこはさっきまでの真っ暗な空間ではなく、薄暗くはあるが本来自分がいたはずのショッピングモールの中だった。
(私、一体何を……)
「櫻笛!」
「結羽!」
後ろから鈴江達の声、そこで多数のゾンビ達が目前に迫っているのに気付く。
「くそっ!」
背後から誰かが駆けてくる音。おそらく鈴江だろう。
高音はそれらの光景がスローモーションで見ているかのようにはっきりと認識できた。
このままでは敵に押し潰される。
悲鳴と怒号と呻き声とぐちゃぐちゃな音の中でそれは、はっきりと聞こえた。
『いついつでやる?』
「籠目(かごめ)っ!!」
自分でも何故かはわからない。しかし気づいたときにはそう叫んでいた。
高音がその名を叫ぶとゾンビの濁流は勢いよく反対方向へ吹き飛ばされた。
いや、正確には押し戻されたのだ。地面にぽっかりと空いた黒いモヤ状の穴。そこから出てくる
「はぁ……はぁ……っ!」
頭がガンガンと揺らされるような、ひどい船酔いのような感覚と共に息が上がる。
なんだ、これは。こいつは一体なんなんだ。
「櫻笛!」
フラフラと倒れそうになったところを鈴江に抱き止められる。
「大丈夫か、これは一体……」
そう言いつつも鈴江は
高音がダーネスの力によって無意識下に作り上げていた空間で、鈴江を追い詰めたあの腕の怪物。それそのものだった。
「大丈夫です。これは……これは、
自分でも何故パニックにならないのかわからない。いや、なってはいるのだ。あまりにも急な展開に理解が出来ない。
しかし、だというのにこれだけは確信が持てる。こいつは、自分の意思で、思いで動く。
「籠目! あいつらを、アイツらをやっつけて!」
高音の号令で籠目は一度霧散。モヤが未だもぞもぞと立ち上がろうとしているゾンビ達を取り囲むと、そこから腕の壁が出現。ゾンビ達を完全包囲した。
「ウグォォ!!」
無数の腕に体のあちこちを掴み取られたゾンビは身動きがとれず、呻き声をあげるだけだった。
「ぐっ……!」
形勢は完全に逆転したかに思えたが、その実、焦っているのは高音の方だった。
掴んだ腕の力を強めるよう念じて、実際音で聞こえるほどギリギリと強く掴んでいても、ゾンビ相手には決定打にならない。
また、強く念じれば念じるほど、高音の酔いのような感覚は強まり、まるで身体の内側をガリガリと削り取られているかのような錯覚を覚えた。
「櫻笛! そのままで押さえてろ!」
汗をかき出した高音の横から鈴江の声が飛ぶ。
見るといつの間にか数歩離れた位置で鈴江は居合いの構えをとっていた。
「はぁっ……!」
気を高めるとでも言えばいいのか、そうすると共に鈴江の体を青黒いオーラ、魔力が包み込んだ。
「でやぁぁぁぁ!!」
そのオーラの量、濃さが高まると声と共に勢いよく桜花を振り抜いた。
振り抜き、放たれたエネルギーは取り押さえられているゾンビ達を次々に巻き込んでいく。
「ウ゛ゥゥゥゥ……!」
攻撃をまともにくらい、もがきながら呻いたかと思うと、ゾンビ達はバタバタと糸が切れたかのように倒れ、動かなくなった。
「やったぞ! 櫻笛! ……櫻笛?」
「はぁ……はぁ……」
ゾンビの撃破を確認して高音に向き直ると、そこには目が虚ろで顔面蒼白な状態の高音が息を切らして立っていた。
また、あれだけ居た腕の壁、籠目もいつの間にか今度はモヤすら残さず消え去っていた。
「あっ!」
それから間を置かずに高音は仰向けに倒れてしまう。
咄嗟にそれを側ににいた結羽が受け止めるが、高音は息も浅く、ただならぬ状態であることが明白だった。
「鈴江さん!」
「どこか安全なところへ運ぶぞ! 手を貸せ!」
体格的に支えきれていない結羽から奥人へ高音を引き渡し、移動しようとした時、
「そうはいかねぇな」
その声は暗がりからぬるりと現れた。
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