S3-11「合流」

 奥人が逃げ去ってからしばらくして、改めて何もないことを確認した鈴江は当初の予定通り元いた店の反対側へ向かって

 本来ならはぐれた奥人とできるだけ早く合流するべきなのだろうが、もう色々と対応に疲れた鈴江は無理をしてまで合流するのをやめた。

「まあ一応走ってった方向も一緒だし、そのうち見つかるだろ」

 もちろん奥人の安否を心配する考えは一切なかった。


「本当に誰もいないな、被害者どころか危害を加えてくる奴らもいない」

 その後しばらく周りの店を覗きまわりながら、人がいないか探るも、結果は芳しくなかった。

「はあ……どこかで休むか」

 こうも何もないと最初こそ張り詰めていた緊張も長続きせずに解けてしまう。

 一先ずどこかで状況を整理しようと辺りを見回すと、道の脇に並べられていたベンチに人影を見つけた。

「あれは……! 櫻笛!」

「――! あ、先輩!」

 鈴江の声に反応して振り返ったのは高音だった。その顔は今にも泣き出しそうだった。

「無事だったか」

「はい、なんとか」

「そうか、よかった。――ん? そいつは……」

 高音の元に歩み寄った事で、先程まで影になっていて気付かなかった存在に気づいた。

 ベンチに横たわって死んだように動かない存在。奥人の妹で高音に数々の嫌がらせをしてきた例の少女だった。

「そいつも巻き込まれてたか。……一応聞くが生きてるよな?」

「あ、はい。ビックリして気絶してるだけなので」

「ビックリして?」

「えーっと……さっきすごい奇声を発して何かが走っていって、その時に」

「あぁ……」

 言い終わる前に大体何があったのかを察する。

 怯えた表情の高音に、鈴江はとりあえず大丈夫だと端的に状況を話しておくことにした。


「うーん……?」

 そうこうしているうちに件の少女が目を覚ましたようで、ぎこちなくその体を起こした。

「よう、目が覚めたか」

「へ? ……うげ! 原田鈴江!?」

 寝ぼけ眼で鈴江の姿を確認した瞬間、その目はバチッと見開かれた。

「起きたばかりで悪いが、とりあえず今何が起こっているかだけ説明させてもらおうか」

 鈴江は今自分達が置かれている状況とその打開策をかいつまんで説明した。

「……なにそれ? 意味わかんない」

「だろうな、別に信じなくても良いけどその場合お前は置いていくし、助けもしない。自分でどうにかしてもらう」

「は!? ちょっと!」

「当たり前だ。そもそも本来こっちとしてはお前をぶん殴る理由はあっても助ける理由なんか無いんだ」

 身を乗り出して抗議しようとする少女を、にらみ返してソロ言葉を遮る。

「どうなんだ? 素直に言うこと聞いてついてくるのか、一人でここに残るか」

「ぐっ……わかったわよ! 信じるわよ!」

 苦虫を噛み潰したような表情でなげやりに少女は言った。

「だけど! はやめて! さっきから! アタシには結羽(ゆう)って名前があんのよ!」

 涙目でキッと睨む姿は邪な趣味を持つものからしたら、なかなか様になっていると思うことだろう。

「ああ、わかった。諏訪結羽、ここから出られるように協力してやる。よろしく」

「……ええ、よろしく原田

 鈴江が差し出した手をとって立ち上がる結羽。そのまま握手の形になるが、その手は明らかにギリギリと力が込められていた。

(あわわわわゎゎゎゎ……)

 その様子を端から見ていた高音はただオロオロ両者を交互に見つめることしかできなかった。


「で、とりあえずはさっきすっ飛んでったお前の兄貴を確保したいんだが」

「マジで? あれお兄ちゃん? 最悪……」

 ついさっき自分が気絶する羽目になった原因があろうことか自身の兄だと聞かされた結羽は、顔を覆って嘆いていた。心なしか顔も赤い。

 自分に対して向かってきたいつもの悪逆非道の彼女を知っている高音はなんとも言えない気持ちになった。

「で、あいつが走っていったのはこっちで間違いないんだな?」

「はい、真っ直ぐ奥の方へ向かっていきました」

 俯いてぶつぶつと言っている結羽に変わって高音が返答する。

 鈴江はそうか、と短く相槌をうつと示された方へ進もうとした。すると、

「ァァァァアアアアアア!!」

「……戻ってきたぞあのバカ」

 噂をすればなんとやら、探していた本人が向かう先から全速力で駆けてきていた。

「手間が省けたのはいいが、あいつ何であんなに……」

 言いかけて鈴江が固まる。その顔にはさっきまでなかった冷や汗がたらりと垂れていた。

「「――? ……なぁ!?」」

 それを見た瞬間声がハモってしまう高音と結羽。

「ああ! 鈴江さん! 鈴江さん、あの! どうしたらいいすかね!?」

 半泣きになりながら叫ぶ奥人。その後ろから迫るはおびただしい数のだった。

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