S3-9「必殺の……」

「グウゥオォォォォ!」

「くるよ!」

「止まれ! 止まらないと撃つぞ!」

「ゾンビなんだから撃たなきゃ止まらないわよ! ――ブライト!」

 飯田が職業病を発症してる横でセインが手を頭上へ掲げると、ぱあっと辺りから闇が取り除かれる。

「効果は三分よ、それ以内に倒しなさい!」

「おうよ!」

「おっけー!」

 辺りが明るくなったのを確認すると、空と飯田は手に持っていた懐中電灯をセインへと投げ渡し武器を構えて敵と向かい合う。

 突然の明るさの変化にもゾンビは一切反応することなくすぐに行動へ移した。

 ゾンビは飯田、空に向かって床を抉(えぐ)らんばかりに蹴り、跳躍。

 しかし、二人はそれを左右に展開することで難なくかわした。

「さすがに跳んでから軌道修正は出来ないだろうからな。横に避けりゃなんともないぜ!」

 避けた先で飯田は、自らの勢いで体勢を崩しているゾンビに向かって発砲。弾はゾンビの左モモへと命中した。

「グウゥ!」

「おぉ!?」

 命中したを見た飯田はの驚きの声を上げる。

 弾丸が命中した部分が、まるで花が咲くようにのだ。

「氷属性……弾丸との相性もいいわね! どんどん撃ち込んじゃいなさい!」

 セインの激が飛ぶと共に二発、三発と連続で引き金を引く。

 弾はゾンビの腕と脚を中心に全弾命中。凍りついた体にゾンビの動きがかなり鈍る。

「いよっしゃ! 接近!」

 その隙をついて空は敵の至近距離まで接近することに成功した。

「せやぁぁぁぁ!」

 トンファーによる中段突きがゾンビの腹部にクリーンヒットする。命中した衝撃で体を覆っていた氷が砕け、同時に放たれた風属性の追撃突風により、ゾンビは大きく吹き飛ばされる。

「ゥオァァ!」

「なにっ!」

 が、しかしゾンビは吹き飛ばされた状態から空中で無理やり体勢を立て直すと、見事に足から地面に着地した。

「うっそぉ!?」

「ゾンビってあんな機敏なもんだったか?」

 驚愕の声を上げる空と飯田から離れた位置でセインは怪訝な顔でその様子を見つめていた。

(死体を半自動的に動かしてる動きじゃない。どこかから遠隔で操作してる……?)

 セインが後衛で考えている間に、ゾンビはまた大きく跳躍しようとする。しかし、床を蹴ろうとしたところで大きくよろめき、寸でのところで踏みとどまった。

「どうやら効いてないわけじゃないらしい」

「マジか! よーっし、それなら!」

 飯田の言葉を聞いた空は風を切る勢いでゾンビの元へと駆け出した。

「援護する!」

 飯田の援護射撃は見事、ゾンビの足に命中。ゾンビは床に氷で縫い付けられた。

「いよっしゃあぁぁぁぁ! くぅらえぇー!」

 空が雄叫びを上げると血捨(ちぇすと)を中心に淡い緑色の光が満ち、それは最終的に空の体を包み込んだ。

「この時のために編み出したんだ! 必殺~……」




「トンファーキィーーーークッ!!」




「なにぃぃぃぃ!?」

 その光景に思わず飯田、絶叫。

 トンファーキック。それすなわち飛び蹴りである。しかし、通常と違うところはその手に持った血捨(ちぇすと)からとてつもない突風を放ち、ジェットブースターの要領で超スピードで突っ込んで行く点である。

「――!! ゴァッ!」

 当然そんなものを避けられるわけなくゾンビは見事に空の蹴りに巻き込まれる形になった。

「なんて奴だ。だがこれなら……」

「ああああああ!!」

「ん?」

「止まんなぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」

 必然。当然の結果。ジェットブースターの飛び蹴り、どうやって止まるのか、そこまで頭が回っていなかったのだ。

「ぶつかるぅぅぅぅ!」

 もはやこれまで、空はゾンビを巻き込んだまま道の隅に積んである荷物の山へと突っ込んでいった。

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!」

「ウグォゴアァァァァァァ!!」

 甲高い悲鳴と地のそこから響くような叫び声が同時に辺りに響き渡る。

 積んであった荷物は吹き飛ばされ、ぐちゃぐちゃに周囲に散乱した。

 それと同時に、示し合わせたかのようにセインの照明魔法も効果を終わらせた。




「えぇ……」

 それはまるで、コントの終幕を告げる暗転のようであった。

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